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ホラーだからこそ成立する異形のミステリ。世の不条理を暴く黒い短編集‐『鼻』

『鼻』

曽根圭介/2007年/288ページ

人間たちは、テングとブタに二分されている。鼻を持つテングはブタに迫害され、殺され続けている。外科医の「私」は、テングたちを救うべく、違法とされるブタへの転換手術を決意する。一方、自己臭症に悩む刑事の「俺」は、二人の少女の行方不明事件を捜査している。そのさなか、因縁の男と再会することになるが…。日本ホラー小説大賞短編賞受賞作「鼻」他二編を収録。大型新人の才気が迸る傑作短編集。

(「BOOK」データベースより)

 

 一読、忘れがたい印象を残す強烈な短編ぞろい。巻頭作「暴落」は、会社ではなく個人それぞれに「株」が発行され、市場で売買される世界を描く。自分の株の価値を守るため、あの手この手で奔走する姿は滑稽でしかないが、他人の「いいね」だのに一喜一憂する今の世もこれとあまり変わりないのかもなと思わされる。NetflixのSFドラマ『ブラック・ミラー』の一編にあっても違和感がなさそうな内容。

 「受難」は、目を覚ますとなぜか路地裏に手錠でつながれていた男の話。そのうち誰かが助けてくれるだろうと高をくくっていたものの、誰もまともに対応してくれないため次第に焦りを募らせていく…という、これまた不条理でブラックな短編。

 「鼻」は非常に優れたミステリであると同時に、まぎれもないホラーでもある。これに関してはもう、つべこべ言わすに読んでくれ! としか述べようがない。本作に仕組まれたどんでん返しは、謎が解けた快感以上の恐怖と遣る瀬無さ、薄ら寒さを読者にもたらしてくれる。

★★★★★(5.0)

 

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