『古川』
吉永達彦/2003年/198ページ
一九六〇年代初頭、大阪の下町を流れる「古川」。古川のほとりの長屋では、小学生の真理とその家族がつつましく暮らしていた。しかし、ある嵐の夜、真理の前に少女の幽霊が現れて―。ノスタルジックなイメージに満ちた、「癒し系」ホラー小説。第八回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作。
(「BOOK」データベースより)
表題作「古川」。長屋住まいでたくましく、つつましく生きる大阪弁女子・真理が主人公で、前半は真理とその周囲の人々のノスタルジックな生活ぶりの情景描写が非常に巧みで感心していたのだが、中盤からはいきなり悪霊とのバトル展開になってしまい、それが長々とラストまで続く。家族間の恨みという生々しいテーマを扱いつつ、最後はなんとなくイイ話で終えているので「癒し系ホラー」という惹句に間違いはないと思うが、少々チグハグさが気にかかる。『じゃりン子チエ』を読んでいたつもりがいきなり『うしおととら』になってしまった感じ。いやまあうしとらも面白いですが、落差が…。
「冥い沼」は「古川」とは舞台・年代ともに近いらしい。主人公の太一少年が「沼」で出会う怪異と人間模様を描いており、いなくなった母親、共食いを利用したエビガニ釣り、見たことの無い少女、沼の周辺で泣きはらす担任教師、父親と縁があるらしいヤクザ、沼に死体を捨てていると噂される肉屋、行方知れずの母親――と言ったいくつものエピソードが積み重なり、これまたノスタルジイ爆裂な世界観を醸し出している。
個人的には「非常に粗削りながらも見どころのある作品集」という感想を抱いたが、吉永氏の著作はデビュー作であるこの1作に留まっている。
★★★(3.0)