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遺志を継いだゾク編始動。タマミ大暴れの表題作&隠れた逸品「影姫」を収録-『ゾク こわい本1 赤んぼ少女』

『ゾク こわい本1 赤んぼ少女』

楳図かずお/2025年/384ページ

楳図かずおの恐怖と妄想の世界へようこそ。

ある夫妻が暮らす洋館の屋根裏に幽閉され、隠された存在であったタマミ。そんな中、施設から引き取られた実の娘がやってきた。幸せそうで無邪気な美少女に、タマミは容赦なく襲いかかる――復讐と嫉妬に駆られたタマミが哀切な表題作。戦国時代、視力を失った残虐な姫の替え玉として生きることになった村娘、奈津。その壮絶な半生を描く「影姫」の2篇。愛を求めつつも、心に棲む魔物が牙を剥く。恐怖が連鎖するストーリー。

(Amazon解説文より)

 

 「赤んぼ少女」-みなしごとして育てられていた葉子は、12歳のときに実の両親である南条家に引き取られる。優しい両親とばあや、立派なお屋敷での暮らしに感謝する葉子だったが、母親が赤ん坊のような姿と鋭い牙、そして爪を持つ少女・タマミを育てているのを見てしまう。タマミは葉子の姉で、その異形の姿を父親に疎まれ、施設に預けられていたはずの子だった。母親の嘆願でタマミも葉子とともに暮らすことになるが、野良猫を噛み殺したり、葉子の部屋を荒らしたりとタマミは奇行を繰り返す。父親はこっそりタマミを排除しようとするが逆襲に遭い、姿を消してしまう。タマミの葉子への暴行がエスカレートしていくのを見たばあやは、葉子を連れて父親の田舎へと向かう。が、タマミはトランクの中に入ってこっそりと2人の後をつけていたのだった…。
 異形として生まれたタマミに嫉妬され、数々の恐ろしい目にあう葉子がただただ不憫。すさまじい執着心で嫌がらせを繰り返すタマミの行動力には感心すらしてしまうと同時に、その深いコンプレックスと絶望もありありと伝わってくる。話としてはかなりムチャクチャなのだが、タマミの造形がとにかくお見事。

 「影姫」-高取城の奈津姫は残虐なことで知られ、“鬼姫”と呼ばれていた。病で視力を失った奈津姫は、自分と瓜二つの美貌を持つ高取村の少女・志乃を影武者として立てる。両親や恋人の清作と引き離され嘆き悲しむ志乃だったが、鬼姫になりきるために横暴で冷酷な振る舞いを身に着けていくうち、志乃の内面にも少しずつ変化が現れていく。鬼姫のおじ・姉川頼母は志乃が影であることを見抜き、志乃の両親を目の前で惨殺して動揺を誘う。だが志乃は見事な演技で乗り切り、頼母は謀反人として斬り捨てられた。この事件ののち、志乃はついに自分が“本物の鬼姫”になるため、奈津姫を謀殺しようと企みはじめる…。

 すさまじい残酷時代絵巻。超自然的な要素こそないが、力なき被害者の立場だった志乃が少しずつ変容していくさまも、奈津姫への壮絶な復讐も、恋仲だった清作に拒絶される姿も、高取城が炎に包まれるクライマックスも、全編すべてが見どころである。『こわい本』シリーズ収録作品のベスト3に入れたい傑作。

 

 『こわい本』の続編シリーズで、『ゾク こわい本』という名称や収録作品は2024年に逝去した楳図かずおが生前に決めたものとのこと。全10巻を予定しているらしく、今後の収録作にも期待できそう。「赤んぼ少女」は角川ホラー文庫でも『赤んぼう少女』として文庫化されており、有名な作品なので読む機会は多いだろう。個人的には「影姫」が拾い物だった。巻末コーナー「楳図かずおのゾク~ッとする部屋」は、青春時代の作者のフォトを収録した「UMEZZ写真館」とタマミのイラストを掲載した「UMEZZアートギャラリー」。

★★★★(4.0)

 

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