『バチカン奇跡調査官 終末の聖母(ディー・ゲリトニクス)』
藤木稟/2013年/512ページ
バチカンで法王選挙が行われる最中、美貌の天才科学者・平賀と古文書・暗号解読のエキスパート、ロベルトは、有名彫刻家の作品の除幕式に出席するため、メキシコのグアダルーペ寺院を訪れる。だがその時、法王候補の名を刻んだ彫刻が、音もなく中空に浮き上がり、光り輝く神の道が忽然と出現した。果たしてこれは神の奇跡か、陰謀か!?黒い聖母に秘められた真実を追う2人の行く手に危機が迫る!大人気シリーズ、第7弾。
(「BOOK」データベースより)
新法王を選ぶコンクラーヴェで荒れるバチカン。教皇代行として多忙なサウロ大司教に代わり、メキシコ•グアダルーペ寺院の記念式典に出席することになったロベルトと平賀の2人。著名芸術家による十字架彫刻が聖母像の前に運ばれてきた直後、轟音と共に地震が起き、人々はパニックに陥る。だがその後、金属でできているはずの十字架彫刻が音も無く浮かび上がり、聖母像の上空で静止した。さらに周囲にはソプラノのような美しい音楽が。これは新たな神の奇跡なのか? サウロ大司教は彫刻に新教皇候補の名が刻まれていることを疑問に思い、ロベルトと平賀に奇跡調査を命ずる。聖母像の周囲で見つかった血痕。インディオの子どもたちの不審な連続自殺。教会からメトロポリタン大聖堂までの間に穿たれた、まるで道のような地盤沈下。街で起きる自爆テロ。聴力と視力を失い、ただひたすらに裁縫に興じる老婆。奇跡調査の合間に、メキシコシティで何事かが進行している気配を2人は感じ取る。
聖母像周囲の血痕は、インディオたちが行った生贄儀式の七面鳥のものだった。インディオのリーダーが、8台の重機を盗んだ罪を被せられ拘留されていることを知ったロベルトと平賀は、彼の無実を証明するため重機の行方を探す。だが、ようやく見つけた目撃者の証言は「虹色の蛇が、パワーショベルと油圧機を食べてしまった」という荒唐無稽なものだった。困惑するロベルトをよそに、平賀は「鉄を食べる蛇」の可能性を探り始める。長きにわたる調査の末、ついに2人がたどり着いたのは、アステカ神話の神とキリストを結ぶ驚愕の真実だった……!!
今回の奇跡調査は「宙に浮かぶ金属製の十字架」というものだが、それに伴って複雑怪奇な事件がロベルトと平賀の前に立ちふさがる。この混迷具合と圧倒的な情報量の多さはシリーズの特徴だが、今回はそれが特に顕著。とは言えメキシコという風土、そしてアステカ神話周りのウンチクは新鮮に楽しめる。キャラクターも相変わらず魅力的で、メキシコで逞しく生きる人々の姿は印象深く、姿を消した平賀の相棒・ローレンに代わり奇跡調査官をサポートするチャンドラ・シン博士(表紙の人物)もなかなかエキセントリックな人物で面白い。
特筆すべきは「奇跡の正体」で、正直言ってこのシリーズ、トリックについてどうこう言うような本格ミステリではないのだが、今回はかなり異色の展開で度肝を抜かれる。キリスト教とアステカ神話が「ある存在」によって宇宙規模に結び付けられる終盤には「ちょっとちょっとちょっと!!」と終始ツッコミを入れつつも、そのダイナミックな語り口についつい乗せられてしまうはず。『神々の指紋』のようなロマン溢れる大ボラ話にも引けを取らない、実にワンダーな真相である。信心深きキリスト教の神父を主人公にしたこのシリーズで、あえてこの展開をやることに意味があるのだろう。調査を終えてなお、平賀神父が「奇跡を垣間見た」と語るのもうなずける、実に壮大かつトンデモにて荘厳な奇跡だったと言える。
★★★★(4.0)

