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一族に「この世の富」をもたらす怪異の恵みと災い。展開予測不能の残酷民話-『きんきら屋敷の花嫁』

『きんきら屋敷の花嫁』

添田小萩/2014年/199ページ

平凡で天涯孤独な27歳の知花に、縁談が舞い込んだ。資産家の飯盛家の長男に気に入られたのだ。広大な森に囲まれた屋敷、外部との接触を嫌う家族や親類たち。知花は義母らから一族に伝わる決まりごとを学んでいく。そしていよいよ年に1度の重要な仕事、ひとり暗い森に分け入って“あるもの”を得てくることを教えられた―。選考委員一同が前代未聞の怪異と驚嘆し、『幽』怪談文学賞特別賞を受賞したきんきらゴシック・ロマンス!

(「BOOK」データベースより)

 

 資産家の旧家に嫁いだ知花が任された仕事、森の奥の洞窟から「あるもの」を連れて帰ってくること。勘のいい方なら気づくように、この「あるもの」が怪異であり、一族に巨万の富をもたらす存在なのである。旧家のさまざまなしきたりはこの怪異を出迎えるためであり、かつてしきたりを間違えた嫁はバラバラに切り刻まれてしまった、という昔話もあるらしい…。さらりと読める中編ではあるが、短いページの中で奇妙な一族の繁栄とその終焉がきっちり描かれており体感的なボリュームはある。当初の印象よりもドライでしたたかな主人公がラストでは一瞬頼もしげに見えるが、周囲の雰囲気はどこまでも重く暗く苦しく、「きんきら」の栄華がおそらくは二度と戻らないことを暗示している。

 本作は『幽』怪談文学賞特別賞受賞作であり、審査員の岩井志麻子、高橋葉介の両人が本作の「変」さをひたすら推している。実際のところ、物語に登場する怪異自体はおとぎ話や童話に出てきそうなものではあるが、「いそうでいなかった」タイプである。一言で言えば確かに「変」かもしれない。

★★★★(4.0)

 

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