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キャラの強さに頼らない、容赦ない展開とテンポ良さが光る。主役を食う名コンビも-『異形探偵メイとリズ 燃える影』

『異形探偵メイとリズ 燃える影』

荒川悠衛門/2022年/304ページ

漫画家を目指す高校生の秋人(しゅうと)はある晩突然、不気味な「何か」に襲われる。直後、唯一の理解者の兄が行方不明に。兄を捜すべく訪れた奇妙な探偵事務所で秋人は、奇怪な存在「異形」を追っているという所員のメイとリズに出会う。リズの目には、秋人に取り憑く異形の影が映っていた。異形と兄の失踪、そしてリズたちが追うある人物。全てが繋がったとき、驚愕の展開を迎える! 第42回横溝正史ミステリ&ホラー大賞<読者賞>受賞作。

(Amazon解説文より)

 

 闇に潜み、事象に執着し、混沌を好むという謎の存在“異形”。身長187センチで眼帯隻眼、元女子プロレスラーのメイと、コミュ障で金髪碧眼、異形の影を見る力を持つリズ、異形を追い続ける探偵コンビの活躍を描く。キモ過ぎる異形“双子百足”に取り憑かれた漫画家志望の高校生・秋人から、異形の正体と行方不明になった彼の兄についての調査を依頼されたメイとリズ。かつて異形案件で調べていた女性・美世が秋人の兄の恋人であることを知ったメイたちは、複数の異形の出現から「カオス」状況の発生を感じ取るのだが…。

 テンポの良さと展開の先の読めなさが心地よく、すいすい読み進められる。キャラクター小説では「ああ、こいつは続編にも出てきそうなレギュラー枠だから“安全”じゃん」みたいに興が削がれることがままあるが、本作は容赦なく登場人物を追い込んでいく。メイとリズも周囲の人間をすべて守り切れるわけではなく、犠牲者も少なからず出てしまう。キャラの葛藤と成長を描く過程が陳腐にならないのも、この容赦の無さに加えて丁寧な内面描写があるからゆえ。メイとリズの他にも「地元の名士の令嬢と、吸血鬼として生き続けるかの伝説的なスパイ」という、主役級に濃ゆくて魅力的なコンビが急に出てくるので困ってしまう(困らない)。とは言えあまりに境遇が辛すぎる秋人、あまりに便利過ぎる「ボス」の存在、活躍がフィジカルに偏り過ぎていてほぼゴリラと変わりないメイなど納得いかない部分も少なくはないのだが、まあこの辺りは続編で補完されていくのだろう。続きが気になる好シリーズである。イカと愛花をもっと見たい。

★★★★(4.0)

 

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