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執拗なまでに活き活きと描かれる、アンモラルでリアルな小学生の日常。考え得る中で最悪のラスト!-『夏の滴』

『夏の滴』

桐生祐狩/2003年/389ページ

僕は藤山真介。徳田と河合、そして転校していった友達は、本が好きという共通項で寄り集まった仲だったのだ―。町おこしイベントの失敗がもとで転校を余儀なくされる同級生、横行するいじめ、クラス中が熱狂しだした「植物占い」、友人の行方不明…。混沌とする事態のなか、夏休みの親子キャンプで真介たちが目の当たりにした驚愕の事実とは!?子どもたちの瑞々しい描写と抜群のストーリーテリングで全選考委員をうならせた第八回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作。

(「BOOK」データベースより)

 

 今が思春期真っ盛り。勉強に遊びにいじめにセックスと、充実した毎日を過ごす小学生を絶望のドン底に突き落としたい…! という素直な欲求によって書かれた(と思われる)傑作。主人公の小学4年生・藤山の一人称で書かれており、少々賢すぎる気はするものの、彼らの小学校生活は非常に活き活きとしたリアリティをもって描かれている。最もそれを鮮烈に感じるのは、皮肉にもいじめのシーンである。おそらくは賢すぎるが故にクラスで浮いている女子を徹底的にこき下ろし、血を流すまでに集団で殴りつけても、担任は見て見ぬふり。藤山の親友・徳田は車イス生活をしており、彼のドキュメンタリーを撮影するためテレビクルーが学校に来たりもするが、クルーはクラスの実態に気づいているらしく、こっそりいじめの場面を撮影していたりする。こういう時限爆弾が、さりげない描写のかたわら、あちこちに埋め込まれていく緊張感がたまらない。

 前半はもっぱら小学生らの日常を描くのに割かれており、話の行き先がようやく見えてくるのは全体の半分も過ぎてから。姿を消すクラスメイト、急に羽振りがよくなる大人たち、忌まわしき秘薬の歴史といった要素がすべて線で繋がり、町はおろか世界全体を巻き込んだ最悪のラストにたどり着く。アンモラルなものも含めたこれまでの描写すべてが“ウシゴメコー”であったと気づいた時、読者が感じるのは劇中の大人たちと同様の身勝手な悦びではなかろうか。人の暗部を容赦なくつつき出す、ホラー小説でしか書き得ない展開だ。

 「植物の個性」だのといったバトル漫画みたいな設定は正直唐突感があり、説得力も無いのだが、そうした些細な点が気にならないだけのパワーと昏い熱をビンビンに感じる傑作と言えよう。

★★★★☆(4.5

 

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