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贖罪とサディズムと純愛。唯一無二の世界観で再構築された少女ゾンビ譚-『ステーシー 少女ゾンビ再殺談』

『ステーシー 少女ゾンビ再殺談』

大槻ケンヂ/2000年/191ページ

近未来。そこでは15歳から17歳の少女たちが突然原因不明の死をとげ、人間を襲う屍体・ステーシーとなって蘇える“ステーシー化現象”が蔓延していた。増え続ける彼女たちを再び殺すには165以上の肉片に切り刻まなければならなかった。また、ステーシー化現象の発生と時を同じくして、東洋の限られた地域で数十人の畸形児が生まれた。いずれも女児で、彼女たちは容姿とともに、人と異なる“力”を持っていた。彼女たちの多くはステーシー化し再殺されたが、十数人の畸形児たちは、再殺部隊の追跡を逃れていた…。

(「BOOK」データベースより)

 

 少女だけが突然死し、ゾンビとして蘇り人肉を喰らう世界。彼女らが二度と復活しないよう、その身体を切り刻み肉片へと変える「ロメロ再殺部隊」。社会の変容も親子の情愛も恋人たちの感傷も、レティクル座の神の気まぐれは、すべてチェーンソーの爆音と血しぶきで塗りつぶす。

 小説として見ればなんともイビツな一品であり、どう考えても終章の展開が急すぎる。難波弘之の解説でも指摘されている通り、この題材であれば当然描写しなければいけないはずの部分がごっそり抜け落ちていたりもする。そうした普通の小説であれば大きな欠点となる箇所がまったく気にならないのは、作者の中で『ステーシー』の世界が強固、かつ広大なものとして確立されていることがうかがい知れるからである。あえてゾンビを少女に限定したことで、ゾンビを殺す行為に常につきまとう「贖罪の念」と「サディズム」が強調されているのも印象的。

 ゾンビものの恐怖の一端は「自分も化物(ゾンビ)になるかもしれない」という点にあると思うが、化物と化したはずの少女たち=ステーシーは、その悲惨な境遇に反して非常に幸せそうである。ニアデスハピネスと呼ばれる臨死状態での多幸感に包まれ、死臭の代わりにハーブティーのような香りの鱗粉をまき散らし、その身体はキラキラと輝く。一方、彼女たちをバラバラに切り刻む「ロメロ再殺部隊」の連中は正気と狂気のボーダーをすでに超え、人間でありながら怪物と化した自らに苦悩しているのだ。本書の実質的なクライマックスにも、この「人間とゾンビの立ち位置の逆転」が実に効果的な形で描かれている。かつて女子高だった廃墟に居を構えたロメロ再殺部隊。蘇った少女たちが噛みつかないようギャグボールを噛ませ、内腿にナイフで生前の名前を刻み込み、プロレス技で全身の骨を砕き、細かな肉片になるまで銃でバラバラに撃ち続け…と暴虐の限りを尽くす。酒の余興で少女ゾンビを慰み者する彼らに対し、知性を取り戻したかのように1人の少女が告げる。「許してあげるよ、許してあげるよ、全部、あたしがお兄さんたちを、許してあげるからね」。動揺し、これまで再殺した少女たちを思い返す隊員たち。中には嗚咽を上げる者もいた。いつしか彼らは、発狂した倉庫番が解放した無数のゾンビたちに取り囲まれており…。ゾンビもののお約束シーンをこれまでにない形で再構築した壮絶な一幕だ。

 角川文庫では、本書に短い番外編が追加された『ステーシーズ 少女再殺全談』が刊行されている。今から読むならそちらで問題ないだろう。また、筋肉少女帯のアルバム「ステーシーの美術」「キラキラと輝くもの」は本書の世界観と密接に関わっているので必聴。

★★★★(4.0)

 

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