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男女の心理的駆け引きは、傍から見れば恐怖にもなり得る。トレンディな香り濃厚なサイコホラー-『金曜日の女』

『恐怖小説集 金曜日の女』

森瑤子/1996年/234ページ

自分を捨てた男からの電話を、何年も電話の前で待ち続ける女。婚礼の前日、出会ったばかりの男と駆け落ちを企てる女。女たちの胸の奥底に渦巻く出口のない想いがえぐり出される。森瑤子の遺した傑作サイコホラー集。

(「BOOK」データベースより)

 

 あえて古い言い方をすると「トレンディ」な小説を量産していた作者で、ホラーを書くようなイメージは薄い。11編中、超自然的な内容を扱っているのはわずか2編で、残りはサイコホラー…サイコが襲ってくるヤツではなく、文字通りの心理的恐怖を扱った作品がほとんどである。内面描写が非常にうまく、傍から見ればサイコかつ理不尽にしか見えない主人公の内心も推しはかることができ、なかなか新鮮な読書体験だった。「ただのクソ女やんけ」で終わってしまう話もあったりするが。

 巻頭作「あっ」はある日突然、他人の死相が見えるようになってしまった女の話で、かなりの短編ながら本書収録作の中ではもっともホラーっぽい話。「壁の月」は壁と天井の間に「月」が輝く…という不思議なホテルの部屋の話。奇怪なビジュアルイメージと怪談のお手本のようなオチがきれいにハマった一編。「ポール」はミクロネシアで出会った奔放な男に憑かれる主人公の心理を幻想的に描く妙な作品で、死を描いているのは上記2編とこの話のみ。

 上記以外は基本的にクソ女かクソ男の話だが、主人公のつく「嘘」の過程が異様に生々しい「通り雨」、真犯人よりもクソ男のクソっぷりの方が怖い「同僚」など印象的な話は多い。角川ホラー文庫の中では一風変わった位置づけの短編集と言えるが、素直に楽しめる。

★★★(3.0)

 

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