『恨み忘れじ』
松村比呂美/2009年/238ページ
理性で抑えようとしても、身体のどこかが疼くような感覚とともに深まっていく憎しみ―。飛行中に空と海との感覚がわからなくなる状態に陥った男を描く「バーティゴ」、亡くなった恩師の夫から送られてきた形見分けの謎を描く「マニキュア」、トラウマを抱えた女性とその母親との葛藤を描く「チョコレート」など6編。表面上は異変を見せないまま、身体の中で黒く広がっていく執念を凝視した心理ホラー。
(「BOOK」データベースより)
積もりに積もった怨念から生まれる「復讐」をテーマにした6つのサイコホラー。「バーディゴ」では貞操な妻を放ったらかして不倫を繰り返す夫が、「マニキュア」では担任教師を苛め抜いた生徒が、「永遠の友達」では愛犬を毒殺した町内のトラブルメーカーが、「悪臭の正体」では働こうとしない怠け者の夫が、「クレーム」では交通事故で一人娘を轢き殺した女が、「チョコレート」ではネグレクトの果てに成人後も金をせびり続ける母が、それぞれ復讐の対象となる。
一編一編は読みやすくオチも効いているのだが、ほとんどの話は端的に言ってしまえば「厭なヤツが因果応報な目にあってワロタ」というスカっとジャパン系、YouTubeの泥ママ動画みたいなもので、サイコホラーとは少々違う気もする。そんな中で異彩を放つ恐怖を描いているのが「クレーム」で、交通事故の加害者がいつしか被害者心理に陥ってしまう様はなんともリアルであり、まったく救いの無い展開が読み手を鬱々とさせる。
★★★(3.0)