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微妙な回をノベライズされても微妙な小説にしかならないという自明の理-『世にも奇妙な物語 小説の特別編 赤』

『世にも奇妙な物語 小説の特別編 赤(グール)』

武井彩、旺季志ずか、相沢友子/2003年/245ページ

「こんなはずじゃなかったのに…」子供の世話に明け暮れる日常の中、人生の選択を後悔する主婦・明子。ある時、パソコンの画面上に見つけた見慣れぬアイコンをクリックすると、そこに現れたのは、別の人生を選択し、違う世界を生きるキャリア・ウーマンとなったもうひとりの明子だった―『昨日の君は別の君 明日の私は別の私』。他に、スランプに悩む女流作家、離婚したい中年男、不条理な就職試験にのぞむ女子大生の恐怖を描く三編を収録。「世にも奇妙な世界」へ続く、真っ赤な四つの扉が今、開かれる―。

(「BOOK」データベースより)

 

 「'02 秋の特別編」のノベライズ。原作小説がある「声を聞かせて」以外の4編が収録されている。

 

 「採用試験」(ノベライズ:滝口真希)-株式会社HUMユニバーサルコーポレーションの採用試験会場。そこで行われる試験は「原稿用紙に同じ文字をひたすら書く」、「手の上に乗せたワイングラスをこぼさないよう1時間耐える」など奇妙なものばかりだったが、就職難のこの折、受験者たちは必死に取り組んでいた。そして最後に出された試験は、実弾を使ってのロシアンルーレットだった…。使い古されたオチではあるが、「心を落ち着かせるためのおばあちゃんのおまじない」というギミックが巧い具合に印象を残す。

 「知らなすぎた男」(ノベライズ:高橋槇生)-別居中の妻・しのぶとの離婚を考えている英次だったが、ポジティブな同僚に「嫌だ嫌だと思うからすべて嫌になるんだ。カミさんのことをイイ女だと思うようにしてみろよ」と能天気なアドバイスを受ける。そして、数カ月ぶりに妻と会うことになった英次。彼の目の前に現れたのは、以前のしのぶとは似ても似つかない美女だった。彼の目がおかしくなったのか、それとも…? いろんなパターンが考えられる話であるが、ずいぶん無理がある着地をしてしまう困った話。英次があんな行動を取らなかったら最終的にどうするつもりだったのか、彼女らは。

 「連載小説」(ノベライズ:上田智美)-新進気鋭の若手作家・紺野みずきは、新聞で始めた連載小説が書けずにノイローゼに陥っていた。自殺するつもりでマンションのベランダから身を乗り出した彼女は、向かいのマンションの住民が自分と同じように飛び降りようとしている場面を見てしまう。男の行動を見ているうちにみずきにインスピレーションが湧き、彼を題材にした小説を書き始めるのだが、男の奇行は徐々にエスカレート。ネタを求めるみずきは男の犯罪行為にも手を貸してしまい…。そもそも新聞の連載小説って1日分ずつ書き上げた分を渡す方式なの? とか細かい部分は目をつぶるとしても、すべてがどこかで見たような話でどうも新鮮味が無い。

 「昨日の君は別の君 明日の私は別の私」(ノベライズ:蒔田陽平)-薄給のわりに多忙な夫、手のかかる二歳の息子と暮らす主婦・山田明子。パソコンでの在宅仕事中、見慣れぬ扉の形のアイコンをクリックした明子は、モニターの向こうにもう一人の自分を見る。それは今の夫と結婚することなく仕事を続け、女性週刊誌の編集長に抜擢された美龍明子の姿だった。「そうなっていたかもしれない可能性」の自分の姿を見てお互いに驚く2人。子育てと家事でいっぱいいっぱいの山田明子は美龍明子を、社内政治に疲れ果て孤独な日々を過ごす美龍明子は山田明子を、それぞれ羨ましく思っていた。そして美龍明子は、山田明子の息子・二平を自分の世界に呼び寄せてしまう…。「ちょっといい話」枠ではあるが説教臭さが無く、すんなり楽しめる好編。

 

 うーん。ハートフルな「昨日の君は~」が多少面白かったくらいで、どうも「どっかで見た話の劣化」みたいな回ばかりである。「採用試験」も『世にも』全体で見れば傑作に入るであろうエピソードだが、オチありきの話なので原作を知っているとどうしてもインパクトが薄れてしまった。『赤死病の仮面』をオマージュしたプロローグとエピローグがいちばんホラーらしかったかもしれない。

★★☆(2.5)

 

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