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最初の一編だけでじゅうぶんな玉石混淆オムニバス-『世にも奇妙な物語 小説の特別編』

『世にも奇妙な物語 小説の特別編』

鈴木勝秀、落合正幸、君塚良一、中村樹基、星護、相沢友子/2000年/318ページ

旅客機が雪山に墜落。生き残った美砂たち五人が山小屋で体験した恐怖の一夜とは…(雪山)。ある日、討ち入りを迷う大石内蔵助の足元に落ちてきたものとは…(携帯忠臣蔵)。チェスの元世界チャンピオンに挑戦されたのは、現実の世界を盤とする死を賭けたゲームだった!?(チェス)。お互いのデータを基に結婚生活を疑似体験するという結婚式場の新サービスを受けたカップルの運命は…(結婚シミュレーター)。開けてはならないドアの奥で展開される四つの奇妙な物語。

(「BOOK」データベースより)

 

 劇場版『世にも奇妙な物語 映画の特別編』の4編をノベライズしたもの。テレビシリーズのノベライズは太田出版から出ていたが、あれ、どこかで復刊しませんかね。中井紀夫や井上雅彦が参加していたやつ。

 

 「雪山」-乱気流に巻き込まれた旅客機が猛吹雪の山中に墜落。生存者はカメラマンの結城、老医師の真辺、スキー帰りの麻里と美佐、ビジネスマンの山内の5人だけだった。重傷を負った真理を連れて墜落地点の近くにあるという山小屋を目指す彼らだったが、体力の消耗から麻里を見捨てざるを得なくなる。ほどなくして山小屋に到着するも、リーダー気取りの山内、医師としての責を果たせなかった真辺、親友の麻里を死なせたことで情緒不安定に陥った美佐、麻里にとどめを刺すことになった結城、全員が自分も含めた全員に不信感を抱いているという最悪の人間関係のまま、救助を待つ羽目になる。交代して短い睡眠を取ることにした彼らだが、いるはずのない「5人目」の影が周囲にちらつく。見捨てられた麻里が彼らに復讐しにきたのだろうか…? 山小屋を舞台にした有名な怪談(4人が4隅からそれぞれ移動して相手にタッチしながら夜を明かすが、じつは5人いないと成立しない…というヤツ)を元ネタだが、シチュエーションの緊迫感が半端なく怖い。本書のなかで唯一評価できる作品である。本作は真相がはっきり描かれておらず、ラストは人によって解釈が分かれるであろうが、真犯人が美佐なのは間違いないと思われる。山小屋も「全員が見た共通の幻覚だった」と考えればしっくりくるし、すべてが理詰めで解けるサイコサスペンスではなく、オカルトも入り混じっているという印象。映像版と見比べてほしい一編。

 「携帯忠臣蔵」(ノベライズ:蒔田陽平)-時空犯罪者のおかげで歴史の流れが変わってしまった! なんかの機関は歴史の渦に巻き込まれた人間をピックアップし、過去に送り込んだ携帯電話で偉人と会話させることで、歴史の流れを修正しようとする。主人公が担当する偉人は大石内蔵助。ヘタレで自分勝手、怖がって討ち入りに行こうとしないダメ人間の内蔵助をなんとかおだててなだめすかせ、討ち入りに向かわせようとするのだが…。大石内蔵助が「LOVEマシーン」の着メロの携帯を持ってたら面白いんじゃない? というワンアイデアだけで作られたような話。調理のしかた次第ではユニークな歴史モノとして評価できたかもしれないが、とにかく作り手の実力不足。忠臣蔵に興味がないのが見え見えでギャグも効いておらず、ただただ空虚な駄作。原作は清水義範の「識者の意見」という短編だが、出来は段違いである。

 「チェス」-かつてコンピュータに敗れてスランプになり、姿を消したチェス名人・晃。今やホームレスにまで落ちぶれていた彼に、謎の暗黒金持ち老人がチェス勝負を持ちかける。それは、コマが死ねば身近な人が連動して犠牲になるという恐怖のチェスだった! クイーンである恋人を守るため、晃は死の勝負に挑む! …コマが死ぬと人が死ぬ、というギミックがまったく怖くない。逃げても逃げてもチェスが追いかけてくる! という悪夢的なビジュアルはちょっと面白いが、オチは最悪の一言。

 「結婚シミュレーター」(ノベライズ:緒川薫)-結婚後のふたりの生活をシミュレートしてくれるサービスを受けた有一と千晴。だがシミュレーションが進むうちにお互いのイヤな部分が見えてきて、すっかり幻滅してしまったふたりは婚約を解消することに。だが灰色の生活を送る千晴のもとに、披露宴をキャンセルした式場から「有一からのメッセージテープ」が送られ、それを見た千晴はもう一度やり直してみようと決心するのだった。…と、いうところまでがシミュレーションだったのでした。めでたしめでたし。まあそうでしょうね、という何の驚きも無い話。

 

 「雪山」以外の3編は原作映画の時点でかなりアレな出来で、本書についてもノベライズとして原作との差異がどうこうというレベルではなくなっている。ちゃんとしてください。「雪山」は最高。

★★☆(2.5)

 

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