『おるすばん』
最東対地/2019年/272ページ
「ドロボー」は律儀に呼び鈴を押して訪ねてくる。ドアを開けたら最後、身体の一部をもぎ取られてしまうらしいー。奇怪な都市伝説を聞いた祐子は、幼い姪が最近怯えている、左腕がない「キムラサン」との符合に戦慄する。オカルト雑誌の編集者とともに調査に乗り出した祐子は、封印していた自身の記憶が蠢きだすのを感じる…。底なしの憎悪に読む者を引きずり込む、理不尽かつ容赦ないノンストップ・サスペンス・ホラー!
(「BOOK」データベースより)
裕子の姪、繭が見せてくれた「キムラサン」なる人物の絵。それは「左肩から先が無い全裸の女性」という不気味なものだった。繭が毎日のようにキムラサンの絵を描くことに不安を覚えた裕子は、偶然再会した旧友・文香に相談する。オカルト雑誌の編集をしているという文香は、「ドロボー」なる都市伝説について語り始めた。家にひとりにいる時にやってくるドロボーは、律儀に呼び鈴を押して訪ねてくる。ドアを開けてしまうと、身体の一部のどこかが無いドロボーが、失くした部位をもぎ取ってしまうという…。巷では実際に「ドロボー」に襲われる人が続出しているという。
裕子たちは、ドロボーの都市伝説に酷似した伝承を語り伝える老人たちのサークル「人形會」の存在を知る。ドロボーと人形會には繋がりがあるのだろうか? さらに調査を進める裕子たちは、かつてドロボーに襲われたという人物に会うのだが、はっきりとした悪意を持つ何者かの存在が明らかになる…。
この作者の角川ホラー文庫作品の中では勢い任せ感が少なく、比較的読みやすい。「ドロボー」はキャッチーさこそ過去作に比べて薄れてはいるものの、狡猾さと理不尽さがいかにも都市伝説の怪異といった雰囲気。ただラストで主人公のとある秘密が明らかになり、序盤から伏線も貼られているのだが、正直なところ「だからなんなの」としか言いようのない弱さなのはちょっといただけない。叙述トリックとしては少々肩透かしである。とは言えテンポのよい展開、なんの救いも無いバッドエンディングは素晴らしく、B級ホラーとしては申し分ない一冊。
★★★(3.0)