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珍作「夜汽車の男」が光るが、4編中3編がコメディなのはバランス的にちょっと…-『世にも奇妙な物語 小説の特別編 遺留品』

『世にも奇妙な物語 小説の特別編 遺留品』

勝栄、中村樹基、橋部敦子、山内健司/2002年/254ページ

さえないサラリーマン・井上が、社用で訪れたのは、町全体でお笑いをする奇妙な町だった「おかしなまち」。不慮の事故で右腕を失った天才ピアニスト。復活を懸け彼が選んだ恐怖の治療法とは!?「トカゲのしっぽ」。夜汽車に乗ってきた謎の男。駅弁のふたを開けたとき、狂気の葛藤が始まる「夜汽車の男」。マンホールに落ちた男が、暗闇の中に響く声に振り向くと、そこには...「マンホール」。パイ、楽譜、イカリング、マンホールの蓋。現実と幻想の狭間に残された四つの遺留品が、あなたを不条理な恐怖の世界に誘う。

(「BOOK」データベースより)

 

 「’02 春の特別編」のノベライズ。原作小説のある「無視ゲーム」以外の4編が収録されている。奇妙な事件の被害者の遺留品が収められた地下書類庫。タモリがあなたに見せたのは、クリームパイ、血まみれの五線譜、イカリングのフライ、マンホールの蓋。この4つの遺留品が語る、奇妙な事件の真相が明らかに…というのが「プロローグ」のエピソードである。

 

 「おかしなまち」-岡料町(おかりょうまち)の支社を訪れるはずだったサラリーマン・井上は、電車で寝過ごして岡科町(おかしなまち)に着いてしまう。岡科町はすべての住民が隙あらばダジャレを言い、椅子を倒してズッコけ、ハリセンでどつき、バナナの皮で滑るという全力でお笑いをやっている町だった。支社でまじめな話をしていても全員がボケ倒すためまるで進展せず、井上が不機嫌になるとお通夜のような雰囲気になってしまった。反省した井上は、自分もギャグを飛ばして岡科町に溶け込もうとするのだが…。

 「トカゲのしっぽ」-事故で右手を失ったピアニスト。彼がすがったのは、切れた尻尾も元の姿に戻してしまうトカゲのDNAを注射する再生医療だった。治療のかいあって失われた右手は再生したかのように見えたが、皮がベロリと剥がれてトカゲの腕が現れて…。なんとも古典的な話であるが、ラストはちぎれたピアニストの右腕「から」再生したトカゲ男が出てきて多少盛り上がります。

 「夜汽車の男」(ノベライズ:加賀あきら)-夜汽車の中でひとり、弁当に対して真剣に向き合う男がいた。メインのカツとイカリングフライは最後に食べることに決め、まずはダシ巻き卵とシバ漬けを一口ずつ。ご飯も一口、そしてカマボコ。オーソドックスなおかずで気分を盛り上げつつ、ちょっと珍しいブロッコリーの天ぷらに手を伸ばす。ここまでは順調だったが、キンピラごぼうの予想外のしょっぱさにリズムが崩れ始める。しかも付け合わせのソースだと思っていたものが実は醤油だったことがわかり、最大のピンチが訪れる…! 怖くないどころかオカルトでもサスペンスでもないという、『世にも』の多彩さをさらに広げた偉大なる一編。泉昌之って文章化すると清水義範っぽくなるのかも。

 「マンホール」(ノベライズ:蒔田陽平)-会社に向かう途中、蓋の空いていたマンホールに落ちてしまった添島は、しゃべるネズミたちの国に迷い込んでしまう。地上に出るには裁判所の手続きを経なければいけないらしい。遅刻を気にする添島のため、ネズミの田村が代わりに会社に行くことになるが、全然添島に似ていないデカいネズミが会社に現れたため大騒動になるのだった。

 

 4編中3編が不条理コメディというあまりにバランスの悪い構成。しかもギャグがいまいち効いておらず…。「夜汽車の男」は確かに‟奇妙”な話ではあるが、どうにもやはり玉石混淆である。

★★☆(2.5)

 

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