『スリー/臨死』
林巧(脚本:キム・ジウン、ニタス・シンハマット、ジョジョ・フィ)/2004年/302ページ
あなたなの、私を殺したのは…?記憶を失った女性が遭遇する、冷たい都市に潜む恐怖を暴いた「メモリーズ」。人形に込められた死の呪いに翻弄される、哀しき人間の業と宿命を綴った「ホイール」。妻の死体をバスタブに浸し世話を続ける夫の、切なくも壮絶な愛を描く「ゴーイング・ホーム」。今、最も注目されるアジアの映画監督たちがおくる、新感覚のホラー映画を完全ノベライズ。
(「BOOK」データベースより)
韓国、タイ、香港の監督たちによるオムニバスホラーのノベライズ。小説ならではの工夫も凝らされているのはもちろん、アジアン描写に定評のある著者のおかげか、雰囲気も悪くない。原作映画は未見だが、ちょっと見てみようかという気にさせてくれる。
「メモリーズ」-記憶を失い、所持品のわずかな手がかりを頼りに町をさまよい続ける女。不意に姿を消した妻を探し続ける男。記憶を失った女はどうやら男の妻だったらしいのだが…。上のあらすじでまあまあネタバレされてしまっているうえオチも容易に予想がつくものだが、なかなかショッキングなビジュアルもあり映像で観たいと思わせる。夫の心中描写、というか‟なぜそうするに至ったか”がほとんど触れられていないのはやや不満。
「ホイール」-素晴らしい出来のトッサガン(ハヌマーンと戦ったという緑色の鬼の王)の人形に魅入られた、とある劇団を襲う呪いの物語。捨てても捨てても戻ってくる人形…というよくある筋立てだが、エスニックな雰囲気濃厚の幻想的な妖怪譚に仕上がっている。ただ話自体は本当にシンプル。
「ゴーイング・ホーム」-取り壊し寸前のアパートに引っ越してきた、警察官の陳とその幼い息子。親子のほかの住民はひとり暮らしの老人と、病気の妻を看病しているとい于くらいしかいなかった。ある日、陳の息子が于の娘と遊びにいったまま行方がわからなくなってしまい、陳は于の家を訪れる。だがそこで彼が見たものは、浴槽に浸かったまま死んでいる女性だった。于の不意打ちをくらって気絶し、監禁された陳は、死んだ妻を蘇らせるため薬液に浸しているのだと于に聞かされる。しかも、彼らには娘はいないのだという…。本書の中では屈指の完成度で、多少の後味の悪さの果てに救いをもたらすラストが美しい。ぶっちゃけ前の2作が前座としか思えないほどである。
★★★(3.0)