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特攻カラスが人体を貫く! 予想は裏切らず期待は裏切る凡作-『死の鳥』

『死の鳥』

白土勉/2013年/326ページ

気鋭の動物行動学者でカラスを専門とする美紀のもとを、捜査一課の刑事・松岡が訪れる。住宅内で夫婦が白骨死体で発見された事件で、生き残った娘が「カラスに喰い殺された」と証言したらしい。あり得ないと否定する美紀だが、ある復讐心にかられた青年がカラスを調教していたことが判明。人肉食を覚えたカラスの大群は、やがて無差別に人間を襲い始めた―。翼ある悪魔の襲撃に人間のなす術はあるのか。傑作パニックホラー。

(「BOOK」データベースより)

 

 カラスを調教して殺人カラスに変え、気にくわない連中を殺害していた男・馬場。馬場はうっかり自分がカラスに殺されてしまうが、殺人テクニックと人肉の味を覚えてしまったカラスたちが暴走する。

 捜査一課の刑事・松岡哲也は、謎の殺人事件にカラスが関わっているのではないかと考え、カラス専門の動物行動学者・谷村美紀の協力を仰ぐ。無惨な姿となった馬場の死体が発見され、一連の事件の全貌が明らかになるが、すでに殺人カラスの群れはリーダーの大烏・シッコクとともに野に解き放たれていた。部下を殺された松岡は小動物を異様に憎む駆除業者・奥平の手を借り、カラスたちを一網打尽にしようとするが、「カラスたちは人間の欲望の被害者に過ぎない。カラスの命を救いたい」と主張する美紀と対立する。そうこうしているうちに美紀の勤める大学をシッコクの群れが襲撃、学生たちと美紀の恩師である教授が犠牲となる。呆然とする美紀を尻目に、これまた同僚を殺された奥平が激昂、講堂内に小麦粉をぶちまけ、粉塵爆発で学生もろともカラスを皆殺しにしようと大暴走。ヒトとカラスの生存を賭けた死闘が始まった…。

 

 動物たちが無差別に人間を襲い始めるという、お馴染みのパニックホラー。鳥の場合はタイトルもそのまま『鳥』という偉大過ぎる先達もおり、あえてこの題材を選ぶのならそれなりの新機軸が盛り込まれているのだろう。と思って読み始めたのだが…。

 本作の弱点はリアリティの中途半端さにある。そもそもの根本的な疑問だが、調教されたくらいでカラスが自発的に人を襲うになるだろうか? 猛スピードで体当たりして心臓を突き破ったり、自らの命と引き換えに強化ガラスをぶち破ったり、自動車のマフラーに突っ込んで排気ガスを逆流させようとしたり、ちょっとイカれ過ぎである。ここまでの特攻魂を持つのなら、安易とはいえゾンビウイルスにでも侵されていたりしたほうが説得力がある。カラスの命を救いたい! とのたまったおかげで学生や恩師を死なせてしまう美紀の言動も、美紀の幼い娘と息子がシッコクの卵を持ち帰ったせいで被害が拡大するという展開ももどかしい。身内のミスで事態が悪化する展開も、夫を亡くした美紀と妻に離婚された松岡が最初はいがみ合いながらもいつの間にかお互いを異性として意識していく過程も、さすがに今となってはチープに感じる。その一方で「重要人物かと思われたキャラがあっさり死ぬ」というホラーおなじみの展開もあるのだが、これも悪い意味で期待を裏切っているようにしか…。個人的には本作が「ハイブリットな進化を遂げた鳥パニック小説」とはどうしても思えない。

 本作でいちばん行動に一貫性があるのは、いかにもな「殺され役」として描かれているはずの奥平ではないか。液体窒素にガソリン噴霧、カラスの方向感覚を狂わせる「ネオジム磁石グローブ」なる兵器を駆使して戦う不言実行の男である。

★★☆(2.5)

 

著者 : 白土勉
角川書店(角川グループパブリッシング)
発売日 : 2013-01-25

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