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2001年に書かれた暴走するAI小説。もっと景気よく暴走してくれ!-『あなたの待つ場所』

『あなたの待つ場所』

幸森軍也/2001年/361ページ

永田培朗は大学時代の友人・柳原、桐島と設立したソフトハウス「プロメテウス」でプログラマをしていた。企業相手のメンテナンスを日常業務としていたが、最大の目標は、自己適応能力と自己複製能力を兼ね備えた人工生命の開発であり、そして、その完成は目前に迫っていると思われていた。そんなとき、プロメテウスに大手ソフト会社から開発資金援助の申し出があり、柳原は甘んじてそれを受け入れるが…。

(「BOOK」データベースより)

 

 プログラマの永田培郎(ほうろう)は、大学時代の友人たちと設立した会社「プロメテウス」で新時代の検索システム「ラブ」を開発していた。ラブは人工知能「アイ」と人工生命「アル」を組み合わせることで、自らネットワークを廻って学習する仕組みだったが、アルは検索先のファイルを破壊してしまうことが判明。培郎たちはアルを消去、アイ以外のコンパイルされたファイルに干渉しない次世代の人工生命「アルツ」を開発する。社内LANを用いてテストした後、完成したラブを外部ネットワークに接続する培郎たち。だが残されていたアルの一部分がアルツと接触、本来の強力な検索機能を取り戻すため暴走を開始。都内のネットワークはアルに浸食されていき、東京の経済も交通網もマヒしてしまう。どうする培郎! 賠償金がヤバいぞ!

 

 2001年当時のリアルなコンピュータ小説であり、今となって見れば常識レベルの知識についても当時の状況を踏まえて詳しく書かれている。入力された質問に対して、その質問の意図を推測しつつ返答するラブはまさに現在のチャットAIのようなもので、令和の今読んでも興味深い。

 幸森氏のデビュー作『そして、またひとり…』は率直に言って「前衛芸術」「放送事故」としか形容できない衝撃の怪珍作だったが、本作はキャラクターそれぞれの心情や行動原理がわかりやすく、地に足が付いており、ちゃんとした小説になっている(だいぶ失礼なことを言っているが、前作は本当に理解不能だったので…)。

 ただ本作にも弱点は多く、大前提としてまず、本書はSFではあれどホラーではないだろう。360ページ中AIの暴走によるパニックが起き始めるのがラスト70ページ部分のみというのも少々スローモー過ぎるし、「培郎の妻が出産中に病院のコンピューターが!」という展開もお約束が過ぎて白けてしまう。第2部をまるまるゲイツやジョブスのコンピュータ立志伝に費やしているのも「今そこで!?」という気になる。リアリティ重視でエンタメ性がおざなりになってしまった感は否めない。

★★(2.0)

 

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