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たった一人の老人の「おそれ」が、町を静かに蝕んでいく。シリーズを綺麗に〆る伝奇ホラー-『おそれ』

『おそれ』

倉阪鬼一郎/2011年/423ページ

万全のセキュリティと美しい景観を備えた四季風ニュータウン。女性チェロ奏者キム・イェニョンはリサイタル中、頭部のないヘビのイメージに襲われ、この町に隠された秘密を直感する。ニュータウンを開発した企業グループの総帥・石母川は孫娘と音楽を愛する一方で、人知れず孤独な魂を抱えていた。光あふれる町の背後にひそむ強大な悪意に気づいた聖域修復師・八神宇鏡は、イェニョンとともに未曾有の危機に立ち向かう。

(「BOOK」データベースより)

 

 ひらがな三文字シリーズ完結編。うしろ、すきま、ひだり、さかさ(はそれほど多くなかったが)、これまで語られてきた文字禍がそこかしこで姿を見せ、過去作の主人公・イエニョンと八神がついに邂逅する。とは言え、このシリーズは基本的に1冊で完結しているので過去作を読んでいなくても問題ない。

 今回はシリーズ中でもかなり静かな始まりを見せ、不穏な雰囲気が漂ってくるのは全体の4割も過ぎてからである。財力と権力を持ち、芸術を愛し、家族にも恵まれた地方の名士・石母川。しかし、順風満帆な人生と他人に羨まれるであろう彼の心の奥底は「おそれ」に満ちていた。人間誰しも逃れられない「死」へのおそれ。自らの老いと共に世界の終わりを望む石母川は、地方小都市に結界を貼り、旧き悪神を育てていた…。

 1作ごとにテイストの異なるこのシリーズだが、今回はわりとストレートな伝奇ホラー。ラストの戦いがやや冗長だったり、黒幕一派なのになんのお咎めも無く逃げ出した連中がいたりと、気になる点がなくもないが、中だるみもなくきれいにラストを迎える。締めの一作としては上々の出来ではなかろうか。

★★★(3.0)

 

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