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悪意と邪念の胸糞話をクソボケカップルで見事に中和! か!?-『ホーンテッド・キャンパス 水無月のひとしずく』

『ホーンテッド・キャンパス 水無月のひとしずく』

櫛木理宇/2017年/304ページ

「恋人になってもらえませんか」片想いのこよみからの突然の告白に、草食系大学生の森司は思わずフリーズ。先輩の藍に「恋人のふり!」と言われ、我に返る。聞けば、こよみのゼミの男子学生がストーカー化しそうだという。二つ返事で彼氏役を請け負う森司。一方、オカ研への依頼は禍々しさを増していた。事故現場の花束の怪、脚を這い上る虫の感触、行方不明の中学生。大学生たちの恐くて愛しい日常を描く人気シリーズ第12弾。

(「BOOK」データベースより)

 

 「辛辣な花束」-恋人・烏丸侑基の部屋で一泊することになった横山未亜だったが、「交通事故現場に手向けられる百合の花束」がたびたび現れるという怪奇現象に見舞われ、すっかり取り乱してしまう。幼い女の子が自転車に跳ねられ亡くなったという事故。いまだ捕まっていない犯人はもしかして…?烏丸のことを信じられなくなった未亜はオカ研に調査を頼む。事故現場である急勾配の坂を訪れた森司たちだが、そこは霊感のあるメンバーが躊躇するほどの瘴気が漂っていた…。百合の花束が指し示す真実とは?

 「指は忘れない」-中学時代、「二重人格の霊感少女」キャラを通していた及川聖奈は、久しぶりに再会した旧友・福永千華に「取り憑いている幽霊を除霊して!」と頼まれてしまう。黒歴史を掘り返され困惑しつつも千華の家を訪ねた聖奈は、小さな虫の霊を視てしまう。まったく霊感が無いはずの彼女にすら見えてしまう霊の正体とは? 相談を持ち込んできた聖奈と共に千華の家へ向かうオカ研の面々。聖奈が虫だと言っていた霊の正体は、這いまわる人間の指だった。この指の持ち主はいった誰なのか。聖奈と千華の過去をつなぐ、もう一人の人物とは…。

 「罪のひとしずく」-オカ研を訪れた中学2年生・野平透哉は、倉庫での肝試しの最中に姿を消してしまった同級生・二階堂を探してほしいと依頼する。かつて2人の学生が首を吊ったという曰く付きの倉庫であり、警察の物理的な捜査は見当違いだと訴える透哉。彼が二階堂が消えたことに罪悪感を感じているのは確かなようだった。透哉の義理の兄・工学部4年の古賀真軌は「透哉がいっさい傷を負っていないのに、腕から出血していた」という奇妙な出来事について話す。同じころ、学生課の職員・馬淵が「怪我もないのに皮膚からなぜか血があふれ出す」現象について相談に来ていた。これはキリストの受難を再現したという「聖痕現象」ではないか。まったく繋がりがないように見える透哉と馬淵、2人には何か共通点があるのだろうか…?

 

 今回の事件はいずれもかなり悪辣で、人間のイヤな部分を煮詰めたような話ばかりである。プロローグ・エピローグでは「ストーカーを追い払うため森司がこよみの恋人のフリをする」という王道のイベントが起き、各話でも合間合間にふたりの恋愛ポンコツぶりが発揮されるのだが、それくらいはやってもらわないと暗鬱極まりない。この軸物語にもちゃんとミステリ的な仕掛けがあり、抜かりの無い構成である。

★★★★(4.0)

 

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