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超マイナーからモナリザの謎まで。怪奇現象のバラエティと主人公の鈍感さはシリーズ随一-『ホーンテッド・キャンパス なくせない鍵』

『ホーンテッド・キャンパス なくせない鍵』

櫛木理宇/2015年/336ページ

年の瀬も押し迫ったある日、オカルト研究会に奇妙な依頼が。絵画愛好会主催の、卒業生のための展示会。モナリザを題材にしたある絵に、クレームが殺到したという。それは、男子学生が婚約者をモデルに描いた絵。婚約者どころか片想いど真ん中の霊感系大学生・森司は、原因究明にかり出されるが…。片想いのヒロイン、こよみと迎える年明けと、やがて味わうハートブレイクの先に待つものは!?青春オカルトミステリ第7弾!! 

(「BOOK」データベースより)

 

 「嗤うモナリザ」-モナリザを題材に描いた絵の展覧会を開いた絵画愛好会。だが、とある1枚の絵にのみ「怖い」「気持ち悪い」「悪ふざけはやめてください」「警察に言います」といった不評が続々と寄せられる。オカルト研の面々は婚約者をモデルにしたというその絵を見せられるが、霊感のある森司の目にもごく普通の絵にしか見えなかった。では、この絵の不評の原因はいったい何なのか…? 謎多き作品・モナリザについてのうんちくも楽しい芸術ミステリ。

 「仄白い街灯の下で」-空き巣に放火、痴漢とトラブルつづきのとある町内で、もう1つの怪奇現象が多発していた。それは離れた町から来た通行人が、迷子になったあげく切れかけた電灯の下で立ち往生するという奇妙なもの。そしてついには殺人事件も発生し…。「壊れていないはずの街灯が点滅して消えかかる」という地味極まりない超常現象、ストリート・ランプ・インターフェレンス・データ・エクスチェンジ(SLIDE)が元ネタの一編。いくらなんでもマニアック過ぎる。

 「薄暮」-大学事務局員の免田は、難病の少女とクラスの男子生徒の最期の交流を描いたノンフィクション作品「薄暮」のモデルとして有名になった過去があった。だが「若くして病死した少女の悲恋の相手」というストーリーは、十数年経った今でも彼にまとわりついて離れようとしないのっだ。文字通りの「過去の亡霊」が免田の背中に憑いていることを知った森司は…。

 「夜に這うもの」-地域社会文化論のレポートを書くため、50年前に学生寮があったという場所を訪れた学生たち。実はここは自殺願望が伝染するという曰く付きのスポットであり、無数の這いよる虫に襲われる幻覚を見た学生の1人が突発的に首吊り未遂してしまう。くだんの場所の過去について調べるオカ研は、50年前の学生運動に端を発する連続自殺の真相に迫る。

 登場する怪奇現象のバラエティの幅広さは過去随一。相変わらずこよみを前にすると自己評価が底辺まで落ちる森司のクソボケぶりにやきもきさせられるが、この巻は特に鈍感さがヒドい。まるで80年代の恋愛マンガのようだが、王道であるがゆえにチープさを感じさせない。さらに言えばこのシリーズの良さは、ホラー部分のおぞましさ、仄暗さ、薄ら寒さに手を抜いていない部分にもある。影が濃いほどに光の眩しさもまた際立つ。具体的にはエピローグでつい顔をそむけてしまうこよみとか。

★★★★☆(4.5)

 

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