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B級テイスト特盛ながら、異様な完成度を誇る驚愕の4編-『肉食屋敷』

『肉食屋敷』

小林泰三/2000年(復刊:2023年)/240ページ

異星からの遺伝子が、すべてを食い尽くす。 邪悪を極めた第3作品集!

「山の頂上にドラム缶を積んだトラックが放置されているので対処して欲しい」
村民からの苦情を受けた村役場勤務の“わたし”は、現場の土地に建つ科学研究施設に向かう。
異常な湿気の森に佇む、増改築を繰り返したまるで怪物のような屋敷――
そこで“わたし”は建物の持ち主に、
太古のDNAから復元したという地球外生命体の処分を頼まれるが……(「肉食屋敷」)。

邪悪を極めた4編を収録。
『玩具修理者』『人獣細工』に続く第3作品集。

(Amazon解説文より)

 

 「肉食屋敷」-村役場に勤める「わたし」はトラックが放置されているとの苦情を受け、持ち主である小戸生命科学研究所を訪ねる。歪んだ巨大な骸骨を思わせる外観、人体を模したドアノブやイヤホン、異様で悪趣味な絵画…。あまりに常軌を逸した研究所内で「わたし」を出迎えた小戸所長は、「今すぐこの研究所を焼き尽くして劇薬を撒いてほしい」と懇願する…。不気味極まりない「肉食屋敷」の描写、SFマインドと冒涜感溢れる小戸の研究、大暴れするモンスター、絶望的なラストとどこを取ってもB級テイスト特盛、スケール特大の最強パルプ小説。アンソロジーのマスターピース級。

 「ジャンク」-荒野に腐臭交じりの乾いた風が吹く、ハードボイルドなゾンビー西部劇。細胞活性剤の発明により、死体にはパーツとしての利用価値が生まれた。脳は初期化してメモリやCPUに。目玉はカメラに。心臓はポンプに。消化器はホースに。太い神経は信号線に。スチームパンクならぬゾンビーパンクな世界観のもと、人間狩りのハンターと、ハンターと狩るハンターキラーとの死闘が描かれる。舞台設定がとにかく魅力的で、人体損壊の極みのような話を嫌悪感なく読ませる手腕には恐れ入るばかり。

 「妻への三通の手紙」-癌に侵され、余命が短いことを知った主人公は、愛する妻・綾への最後のラブレターをしたためる。これまで人生を共にしてきたことへの感謝。自分の死後は、親友の磯野に綾の面倒を見てもらうよう頼んだこと。そして穏やかに人生を終えようとしている今、磯野が綾を口説くという不愉快なイメージが頭から離れないこと…。 現代から過去へとさかのぼりつつ、妻に宛てて書かれた三通の手紙を読んでいくことで、真相が明らかになるという『瓶詰地獄』めいたギミックのサイコスリラー。これが本当に巧い構造で、再読必至とは本作の為にあるような言葉である。

 「獣の記憶」-暴力的なもう一つの人格「敵対者」に悩まされている「僕」は、1冊のノートを通じて「敵対者」とコミュニケーションを取っていた。遅刻してはいけない日に目覚ましを切ったり、彼女を怒らせたり、部屋に鳩の死体を持ち込んだりと、敵対者の行動はどんどんエスカレート。そして遂に、身に覚えのない女性の死体がいつの間にか部屋に転がっていて…。主人公が二重人格であることが早い段階で明かされるミステリで、ラスト5行は最初何のことやらわからなかったが、「そうか、二重人格とは…」と気づいてひっくり返った。こうまで予想を覆されたのも久々の体験で実に気持ちいい。参った。

 小林泰三の初期短編集はどれも異常なクオリティだが、エンターテインメントに振り切った本書は特にすばらしい。必読としか言いようがない。

★★★★★(5.0)

 

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