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底辺主人公が陥る巧妙な罠。夢も希望も鎖で縛り付ける胸糞サスペンス-『汚れた檻』

『汚れた檻』

高田侑/2011年/331ページ

小さなプレス工場での単調な作業と上司の嫌がらせに鬱屈していた29歳の一郎は、偶然再会した友人・牛木の会社で、高級犬の販売を手伝うことに。だがやくざのような牛木の父、我が物顔で家にあがりこむ作業員たち―怪しいことだらけの状況に、一郎は不安をつのらせていく。噂では、牛木と親しくなった者は皆、死んだり家屋敷を取られたりの不幸に見舞われているらしい―。これは地獄の始まりなのか!?奈落のリアルホラー。

(「BOOK」データベースより)

 

 主人公・辻原一郎は工場で働く29歳のフリーター。バカで性格が悪いうえ仕事は出来ず、出会い系やマルチ商法に騙され、理由のないプライドだけは高く、稼いだ金は競艇につぎ込むという絵に描いたようなダメ人間だ。前半は彼のダメ過ぎる日常が詳らかに描かれており、それだけで楽しく読めてしまう。そんな彼の生活にも2つの大きな変化が訪れる。1つは、学生時代の後輩・春加と再会できたこと。人妻ながら「かつて辻原のことを好きだった」と語り、騒がしいほどに陽気で明るく、貧乏人にも分け隔てなく接してくれるヒロインである。もう1つは、これまた学生時代の友人である牛木との再会。牛木は父と経営しているドッグブリーダーの会社へ辻原を誘い、「給料は今の倍出す」「難しい仕事は何も無い」「自分が乗ってる車も貸す」などと異様なほどの好待遇を提示してくるが、当然バカな主人公はホイホイと乗ってしまう。カタギには見えない牛木の父親。勝手に家にやってくる従業員。勝手に家に設置される何かの装置。浮気に気づいたらしい春加の夫。牛木と関わった人間が次々姿を消すという噂。不安に抱きつつも、辻原は工場で働いていた同僚を客として牛木に紹介する。その時、すでに辻原の運命は決まっていたのだった…。

 1993年に起きた「愛犬家殺人事件」にヒントを得たと思しきサスペンスで、前述の通りあまり賢くない主人公がズブズブと深みに嵌っていく様が実にスリリングである。物語としては「いかにも悪そうな連中が実際に悪い人でした」というだけの話で、単純と言えば単純ではあるが、このシンプルさが逆にリアリティを感じさせる。人は騙す、金は奪う、邪魔者は消すという、蟲のような倫理観しか持たない人々。ラストのあっけなさもシンプル極まりなく、怖い。

★★★★(4.0)

 

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