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悪縁を「終わらせ」る、死と慈悲の救済者。昏く優しい大人のファンタジー-『終わらせ人』

『終わらせ人』

松村比呂美/2011年/256ページ

母の訃報に接しても祈子は動揺しなかった。生後まもなくの祈子を見捨て、連絡を絶っていた人だ。仕方なく遺品整理に出向いた先は圧倒されるほどの立派な洋館だった。邸内にあったパソコンを起動させる。「終わらせ人の館」。怪しげなサイトがモニタに映し出される。調べると母が悩み相談で報酬を得ていたことがわかる。新種の霊感商法だろうか。疑念は深まるが、やがて祈子は「終わらせ人」の恐ろしい秘密を知ることになる。現代版“必殺仕置人”ともいうべき傑作ホラー。

(「BOOK」データベースより)

 

 フリーライターの里中祈子は、幼いころに自分を捨てた母親から遺産を受け継いだ。大金が預金された通帳、広い敷地の御屋敷に疑問を抱く祈子。生前の母はどのような暮らしをしていたのか…?

 祈子が屋敷にあったパソコンを起動させると、母が「終わらせ人の館」なるサイトを運営していたことがわかった。メールボックスには見知らぬ人々からの感謝の言葉、そして助けを求める声。祈子の母は「終わらせ人」としてさまざまな依頼を請け負っていたのだ。そしてまた祈子にも、終わらせ人としての素質が備わっていた。家庭内暴力をふるう引きこもり息子。妻を苛むパワハラDV夫。子供を虐待する母親。終わらせ人は業の深い人々に巣食う穢れを取り除き、思いやりのある真人間に戻すことができる。だが穢れを取り除かれた人間は、数日のうちに死亡してしまう…。依頼者に束の間の幸せと安らぎと与える代償に、報酬と罪の意識を得る。それが終わらせ人の宿命だった。

 

 あらすじの「現代版“必殺仕置人”」という説明はまあ間違ってはいないのだが、本作には仕置人のような痛快さとは無縁で、雰囲気はずいぶん異なる。ファッション誌で働く祈子の仕事ぶりは細かな描写からリアリティを感じられるし、彼女の仕事への真摯なスタンスから人となりも見えてくる。あくまで等身大の女性でありながら、「終わらせ人」という役目を担うことになってしまったわけであり、決して仕置人のようなキリングマシーンではない(いろんな意味で「理想の生き方」をしているためヒーローっぽさはあるが)。

 現実的にシビアでありながらも作者の視点は優しく、虐げられた側の人へはもちろん、虐げる側の人に対しても「終わらせ人」は慈愛に満ちた存在と言える。「泣けるホラー」という惹句の作品で泣いたことはないが、母親からのまっすぐな愛が伝えられる本作の最終章には心打たれる。

★★★★(4.0)

 

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