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20年前の“いじめ”の恨みが爆発する復讐サスペンス…かと思いきや、予想外過ぎる真相に困惑-『卒業』

『卒業』

吉村達也/2002年/180ページ

高校卒業の日、積年の怨みを自殺という形であてつけようと、伊豆山中に死に場を求めた神保康明は、そこで奇妙な老人と少女に会う。「二十年後を待て」それが老人の放ったメッセージ。死を思いとどまった康明は、やがて愛妻家で子ぼんのうのよきパパとなる。だが、二十年後の同じ日、平和な暮らしをしていた康明に、突然復讐の鬼が取り憑いた。何も知らぬ妻の前では理想の夫を演じながら、陰では人の頭を打ち砕く殺人鬼。その背景には常識を超えた驚愕の真相が。

(「BOOK」データベースより)

 

 かつていじめられっ子だったものの、今は幸せな家庭を築いている主人公。20年前の卒業式の日、彼は自殺するつもりでひとり山奥へと向かった。だが恨み言を書いたノートをタイムカプセルとして埋めてから、不思議と「死のう」という気はいっさい失せてしまった。だが20年後にふと当時のことを思い出し、娘を連れてタイムカプセルを掘り返しにいったところ、発酵し熟成された20年モノの恨みが脳内で爆発。これまた普通に家庭を持って暮らしている元いじめっ子の家に行き、ねちねち話して過去を思い出させた後、謝罪する相手を容赦なく撲殺する。この辺のシーンは主人公の異常性が存分に発揮されており、薄ら寒くなると同時に妙に痛快でもある。

 主人公に対し「殺せ」「怨め 死ぬな 怨め 殺せ」とメッセージを送る、不気味な老人と老女の存在。娘が描いた山奥で首を吊る男の絵。いったい主人公の身に何が起きているのか…。と来れば「ああ~そういう感じね」となんとなく推測できてしまうのだが、本書はそうした読者の予想を見事に裏切ってくれる。主人公の目の前に姿を現した老人と幼女は「自分たちはお前の自意識を越えた絶対意識である」と哲学的な問答を投げかけてくるのだが、以降の展開は正統派ホラーを期待していた読者が「?????」と呆気に取られること間違いなし。なんなんだコレは。ジャンル分け不能の怪作である。

 あとがきによれば本作は連作の第1作目であり、3作目までのプロットがすでに完成しているが、どの作品が本作の続きになるのかは伏せつつ発表していくとのこと。角川ホラー文庫でコンスタントに書き下ろしを発表している作者ならではのギミックと言える。

★★★(3.0)

 

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