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すべての厨二病は道を開けろ! クトゥルフ×バイオホラー×サイバーパンク×SFアクションのデカ盛り無敵エンタメ-『二重螺旋の悪魔』

『二重螺旋の悪魔(上)』

梅原克文/1998年/512ページ

遺伝子操作監視委員会に所属する深尾直樹は、ライフテック社で発生した事故調査のため、現地に急行した。直樹はそこで、かつての恋人・梶知美が実験区画P3に閉じ込められていることを知る。だが、すでに現場は夥しい血で染め上げられた惨劇の密閉空間に変質していた…。事故の真相に見え隠れするDNA塩基配列・イントロンに秘められた謎。その封印が解かれるとき、人類は未曾有の危機を迎える!恐怖とスリルの連続で読者を魅了する、極限のバイオ・ホラー。

(「BOOK」データベースより)

 

『二重螺旋の悪魔(下)』

梅原克文/1998年/521ページ

二一世紀初頭。イントロンに封印された悪魔は解き放たれ、世界は焦土と化した。人類もまた、異形の物たちに対抗すべく最終軍を結成した。果たして、生き残るのはどちらか?人類の未来を賭け、悪魔の地下要塞に潜入した深尾直樹の運命は?そして、怪物たちは何故、遙か太古から人類のDNAに封じられていたのか?全ての謎がリンクしたとき、宇宙に秘められたる恐るべき真相が解き明かされる!斯界から大絶賛を浴びた壮大なバイオ・ホラー。

(「BOOK」データベースより)

 

 「第一部 封印」-野心的なバイオ研究者・深尾直樹は親友の会社にヘッドハンティングされ、DNAのイントロン配列にオリジナルのプログラムを組み込む研究に没頭していた。そして完成した未知のタンパク質は、暗号化されイントロンに隠されていた生物を復元されたものだった。大発見に沸き立つ直樹たちだったが、急成長したタンパク質は5つの眼と鋭い牙、蛇の身体を持つ怪物へと変貌、研究員たちを殺害して回る。怪物を撃退し、ただ一人生き残った直樹は現場に駆け付けた遺伝子操作監視委員会・通称「C部門」にスカウトされる。C部門はイントロンの配列から生み出される怪物—CTHLHUこと“C”の危険性を把握しており、各バイオ企業を監視しつつ“C”の対処にあたる秘密機関だった…。

 2年後。C部門の調査官として民間バイオ企業・ライフテック社を訪れた直樹は“C”の発生を確認。隔離施設内に取り残された研究員の中には、かつて直樹の恋人だった梶知美の名前もあった。焦りを感じつつも施設内に潜入する直樹。ほとんどの研究員は殺害されていたが、奇跡的に知美だけは生存していた。記憶と感情を失った知美を救出した直樹だが、彼女の肌があまりにも綺麗で、化粧もしていないことに違和感を抱く。その姿はまるで、生まれたばかりのように美しく…。“C”を追って調査を続ける直樹は、施設内でとある人物の死体を発見する。その瞬間、彼は保護した「知美」の正体を知るのだった。

 

 「第二部 超人」-驚異的なパワーを持つ“C”との戦闘で重傷を負った直樹は、もはや前線に出られる身体ではなくなっていた。彼の目的は“C”が持つクローン再生の秘密を知り、知美を蘇らせること。だが直接“C”と対峙できない以上、その望みは絶たれたも同然だった。

 一方、“C”による被害は世界で拡大しつつあった。C部門はラブクラフトの小説に倣い、化け物たちを“GOO”(グレート・オールド・ワンズ)と呼称することに決定。さらに、GOOをイントロンに封じ込めた存在を“EGOD”(エルダーゴッド、旧神)と定義した。

 C部門関係者の病院で絶望の淵にいた直樹。だが彼に接触してきた女医・樋口里奈は、驚くべき提案を持ち掛ける。マイクロマシンによって神経を超電導化し、常人をはるかに超える能力を持つ“UB”(アッパー・バイオニック)を生み出す実験。成功すれば欠損した四肢すら再生する超回復力、GOOとも渡り合える怪力と瞬発力を得ることができる。だが成功率は55%ほど、失敗すれば廃人と化してしまう。さすがに躊躇する直樹だったが、病院に隣接する研究ラボに捕獲されていたGOO“ダゴン102”が脱走する事件が発生。研究員の脳から知識を吸収したダゴン102は、ラボに保管されていた細菌兵器をばら撒こうとしていた。時限式ドアロックが解除される午後8時までにダゴン102を倒すことができなければ、史上最大のバイオハザードにより日本人口の20パーセントが失われる! 投入された対GOO科隊は26名中23名が殺害され壊滅、もはや残された手段は“UB”と化した戦士がラボに突入し、ダゴン102を排除することだけだった。お膳立ては整った…直樹はついに決断を下す!

 

 「第三部 黙示録」-爆発的に数を増やし、機械との融合能力をも発揮したGOO軍の侵攻により、破滅への道を辿りつつある世界。直樹はUBの兵士たちで構成された人類最終防衛軍“ファイナル・フォース”の一員として戦いに明け暮れていた。GOO拠点に潜入するも全滅した部隊によってもたらされた情報。それはGOOが自らのイントロンを解析し、封印されていたEGODを蘇らせようとしているという驚愕の内容だった。GOOとEGODは敵対していたのではなかったのか? GOOの真の目的とはいったい…?

 もはや戦いは最終局面に突入していた。ファイナルフォースはGOOのみを死に至らしめる新兵器“ネクロノミコン・ウイルス”を用いた一大作戦を決行。遅効性のネクロノミコンL型をGOOの水源地に投入、やつらが弱ったタイミングを狙って即効性のウイルスを打ち込むネクロF型弾を装備した兵士で総攻撃をかける、その名も“指輪作戦”が立案された。すべてのGOOをウイルスに感染させるためには、地下基地に建設された浄水場を抑える必要がある。無数のGOOが闊歩する本拠地への決死の潜入。直樹は手練れの部下2名、犬の脳を移植したサイボーグ“ディフェンダー”1名を率いて、人類の命運を賭けた最後の任務へ向かう…!

 

 上下巻合わせて1000ページ超という大作だが、リーダビリティが半端ないため異様なほどスラスラと読める。本編は主人公の直樹が読者に語り掛ける一人称で描かれているのだが、彼はエキセントリックかつ超絶なナルシストであり、はっきり言って変人の類である。時折飛ばすバイオジョークはまったく意味がわからないし、しばしば宇宙海賊気取りのクサいセリフも飛ばす。序盤で軽口をたたくのはもっぱら直樹だけだったが、話が進むにつれて他の人物も影響されたのか、会話は小粋なアメリカンジョークの応酬となる。その一方で作中の重要な設定、用語などについては詳しく、わかりやすく説明してくれるので置いてきぼりにされることは少ない。説明が長くなりそうなときはややこしい部分を後回しにし、読者が知りたがっているであろう展開を先に出してくれるのでダレることもない。「語り手」としては完璧で、奇跡のようなバランスで成り立っている文体を持つ男なのだ。直樹という奴は。

 物語はそんなナルシストの彼が、ラヴクラフトの小説に出てくるかのような化け物たちによって運命を捻じ曲げられ、超人として復活し、最終的には神とも対峙し、世界を救う英雄となり、人類をも超える力を手に入れるというスーパー成り上がり譚である。クトゥルフ風味のバイオホラーっぽく始まったかと思えば、第2部ではSFアクション風味が強まり、第3部では世界を巻き込む未曽有の侵略戦争へと事態はスケールアップ。犬の脳を移植した軍用サイボーグ、自身を透明化するスティルス・コートといった兵器も登場、因縁のライバルとの決戦も、電脳空間に意識を飛ばしてのサイバーバトルもあり、最終的にはGOOとも比較にならない強大な敵も現れる。作者が面白いと思う要素と展開をすべて詰め込んだ感があり、このカロリーとボリュームにはひれ伏すしかない。本書に影響を受けたエンタメ作品も多いのではなかろうか。

★★★★★(5.0)

 

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