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夢の未来で描かれる絶望の家族模様。人の業と想いは永遠に変わることなく…-『ファミリーランド』

『ファミリーランド』

澤村伊智/2022年/320ページ

ホラー小説大賞&日本推理作家協会賞受賞作家が、令和元年にお届けする最も恐いSF小説集。スマートデバイスで嫁を監視する姑、高級ブランド化する金髪碧眼のデザイナーズチャイルドと育児ハザード、次世代型婚活サイトとビジネス婚に待ち受ける陥穽、自律型看護ロボットを溺愛する娘と母親の対決…。ホラーとミステリ、両ジャンルの若き旗手たる著者が克明に描く、明るい未来を待ち望むすべての家族に捧げる、素晴らしき悪夢。

(「BOOK」データベースより)

 

 今より少し未来の「家族」の有り様を描く、不快でブラックなSF連作集。「澤村伊智の描く家族が、いちばん怖い。」という帯の一文が完璧すぎる。確かに『ぼぎわんが、来る』も『予言の島』も歪んだ家族の物語であった。

 「コンピューターお義母さん」―ネットデバイスや家電アプリを駆使し、老人ホームにいるはずの義母が家庭内を完全に把握してメッセで嫁いびりをするという厭な話。遅れて帰宅すると厭味を言い、孫にもタブレットを通じてあることないこと吹き込み、ベットの振動を感知して夫婦の営みを察知する。完全にキレた嫁はスケジュールを偽装し、義母に悟られないようにして老人ホームへカチ込みへ向かうのだが…。「翼の折れた金魚」―妊娠促進剤によって金髪碧眼高知能の子供があたりまえになった時代の厭な話。薬を飲まずに生まれた黒髪・黒い瞳の子供は「無計画出産児」、デキオ・デキコと侮蔑される。「黒髪に産んだ」という時点で、親は子供を虐待しているにも等しいクズ人間と見なされる世界。良識と常識が時代によってたやすく変容する様を描いているのが実にSFで良い。「マリッジ・サバイバー」―時代に取り残された男が婚活アプリがきっかけで破滅する厭な話。「サヨナキが飛んだ日」―医療用小型ドローン「サヨナキ」に依存する娘を嘆く母親の話…と思わせておいてからのどんでん返しが後味の悪さを残す厭な話。「今夜宇宙船の見える丘で」ー親の介護に悩む貧困層のため、親を「改造」するキットが市販されるようになった未来の厭な話。重く、やりきれないテーマの話の中に宇宙船というワンダーが唐突に登場、浮世の憂さを晴らしてくれる…かと思いきや嘆息するしかない無常なオチが待っている。「愛を語るより左記の通り執り行う」は、葬式がバーチャル空間で行われることが常識になった二十二世紀の話。とある老人が「昔ながらの葬式でおくりだしてほしい」と遺言を残すも、とうに葬儀屋といった職業すら無い時代。残された家族とリアル葬式を映像に収めたいドラマディレクターは、資料を基に手探りで葬式なる儀式を再現するも、どうもピント外れのトンチンカンな内容で…という話。いくらでも悪ふざけできそうな内容だが過剰なギャク要素はなく、むしろ時代が変わっても故人を悼む人の心に変わりはないという、微笑ましさすら感じる〆の一品である。

★★★★★(5.0)

 

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