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シリーズ中ではヌルめの入門編だが、エグい話も粒ぞろい。生々しい家族の悪意に慄然-『無惨百物語 ておくれ』

『無惨百物語 ておくれ』

黒木あるじ/2015年/288ページ

火葬場の煙をビニール袋に入れて遊ぶ幼い息子。特種清掃員の自宅を訪れた老人の霊。最終便のバスに乗ると決まって現れる和服姿の母に似た女…。この世ならざるモノに出会い、常識では理解不可能な事象に直面したとき、多くの人は気のせいだと受け流す。だが日常に紛れ込んだ些細な怪異の断片は、やがて凝り固まり、歪に形成されてゆく。気づいたときには、もう「ておくれ」なのだ。怪談実話の旗手による忌まわしき体験談。

(「BOOK」データベースより)

 

 百物語系の実話怪談の中でも惨い展開、グロい怪異などやや過激な内容が目立つシリーズの1本。ただ本書はMF文庫ダヴィンチで刊行されていた前巻までや、角川ホラー文庫の続編『無惨百物語 みちづれ』と比べるとマイルドな内容のものが多く、感動できるイイ話もあったりする。全体的に少々ヌルい気はするが、そのおかげか従来通りのエグい話がかえって際立つ。死者ではなく生者の底知れぬ悪意がなんとも後味の悪い気分にさせてくれる「第二十一話 好き嫌い」「第二話 息子の墓参」、イイ話で終わるのかと思いきや見事に裏切ってくれる「第十五話 バス停の女」「第五十二話 里芋小僧」などは厭ぁな傑作。この四編はいずれも「家族」がテーマで、著者の得意分野なのかもしれない。作者自らが荒唐無稽過ぎて掲載を躊躇したという「第八十六話 予言者たち」は海外SF短編の雰囲気が漂う好編。不気味過ぎるクリーチャーが登場する「第三十六話 机の父」「第六十六話 人面魚」「第六十九話 ペガサス」、ラスト一行で“本当におかしいのは誰なのか?”という疑問が不安を煽る「第三十八話 夕暮れブラスバンド」も個人的に好きな話だ。

★★★(3.0)

 

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