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ショートショートの名手が送る、時には煽情的で時には抒情的な自選短編集-『心の旅路』

『自選恐怖小説集 心の旅路』

阿刀田高/1993年/320ページ

夢遊病? 記憶喪失? 奇妙な記憶に思い悩む私だが、原因として思い当たるのは以前食べたあの……!? 心の奥底からひたひたと怖さがつのってくる表題作ほか、軽妙洒脱な筆致で知られる著者が、全作品の中から選りすぐった珠玉のホラー短編13編。

(「BOOK」データベースより)

 

 短編・ショートショートの名手であり、無数の作品を残してきた作者が自選した恐怖小説アンソロジー。全体的に軽めの短編ばかりだが非常に読みやすい。
 巻頭「心の旅路」は詩的なタイトルに反してなかなか悪趣味というかパルプな一品。ピアノ教師が死んだ美少年の指に夜ごと愛撫される「夜ごとの白い手」、出会えば文字通り熱にうなされるという謎の女「熱病」、ある朝起きると電化製品が次々と故障して、その次には…という「カタン カタン」は、いずれもフェチズムを感じるエロチックな描写が目立つ。序盤にあえてパルプな作品を集中させているのはサービス精神を感じますね。
 煽情的な作品だけではなく、「現実と地続きの怪奇」を描くのも非常にうまい。エッセイ風に始まる「踊る指」「帰り水」、今なお意外と珍しい韓国怪談「慶州奇談」の、読者をたいへんスムーズに奇妙な世界へと迷いこませる語り口のよさは匠の技。未亡人に恋焦がれる男の心情を長々と描き、ラスト1ページで一気に怪奇の世界へと引き込む「薄闇」も見事。

 個人的ベストは事件がエスカレーションしていく様が見事な「カタン カタン」、過去に囚われる主人公の心情が文字通り“らせん”を渦巻くラストが印象的な「らせん階段」

★★★☆(3.5)

 

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