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絶望的な結末が救いに見えるほどに、悲惨極まりないトラウマ作品-『灰になる少年 ~ジョージ秋山恐怖劇場~』

『灰になる少年 ~ジョージ秋山恐怖劇場~』

ジョージ秋山/1997年/393ページ

「おまえが幸せに暮らせるのも、今のうちだぜ」――。潮少年は見知らぬ男に囁かれた言葉が耳から離れない。お手伝いさんの首なし殺人事件が恐怖へのプロローグなのか!? 潮少年に迫る恐怖「灰になる少年」と人間の心の中に生じる邪悪を描いた「フィッシュ・ラーゲ」を収録。闇を裂く傑作恐怖コミック。

(Amazon解説より)

 

 やさしいママとパパ、お手伝いのお敏さんに囲まれて、潮少年は幸せに暮らしていた。だがある日、目つきの悪い青年に「いまのうちだぜ おまえがそうやってしあわせにくらせるのもな」と言われてから、潮少年の運命は大きく変わり始めるのだった。
 交通事故で軽いかすり傷を負ったのにはじまり、化粧品に針を仕込まれたり、窓から石を投げ込まれたり、ベッドに奇形魚を投げ込まれたりと、ママを標的した何者かの嫌がらせが連続して起きる。ママが生命保険に加入したことを知った潮少年は、パパの手がなぜか血まみれになっているのを見て以来、もしかしたらパパはママを殺そうとしているのでは? と疑い始める。日に日に行動の不審さを増していくパパ。募る潮少年の不安…。そして、一家の庭で首がちぎれた女性の死体が発見される。パパがママを殺したんだ!と動揺する潮少年だったが、死体はお敏さんのものだった。とは言え犯人は見つからず、潮少年はパパが時折見せる暗い表情が頭から離れない。そんな折、以前出会った青年が再び潮少年の前に姿を現し、「おまえのおやじは人殺しだよ 十人以上も殺してるんだぜ」と告げる…。

 

 ジョージ秋山先生の漫画にしてはめずらしく、投げっぱなしの伏線などもなくちゃんと完結している。タイトルでネタバレされているし。ジョージ秋山初心者にも安心してオススメできる傑作…と言いたいのだが、正直あまり自信がない。初心者向けと言うにはエグ過ぎる気もする。まあそれはそれとして、本作が優れた社会派ホラーミステリであることは間違いない。

 幸せに暮らす少年がふと抱く、「ひょっとしたらパパは人殺しなのでは…?」という疑問。父親を信用できないまま、母親を救うために奔走するも、潮少年はあまりにも無力。さらに「父親の会社が出した公害病で、多くの人々が苦しんでいる」という事実が彼を打ちのめす。崩れ去る家庭の幸せ。犯人不明の連続惨殺事件。そして姿を現す異形の怪物…。話は不幸と絶望をつるべ打ちにしつつ進んでいき、タイトル通りの結末を迎える。あまりにショッキングな展開が続くため、この虚しいラストすらも少年にとっては救いだったのではと思えてしまう。考えてみれば、“灰になる”という最期は普通の人間となんら変わりのないものとも言える。せめて魂よ安らかにあれと祈らずにいられない。

 

 後半は長編『フィッシュ・ラーゲ』の1エピソードのみが収録されている。フィッシュという名の幼女が巨大な精子に追われる様が延々と続き、ここだけ読んでもまったく意味が分からない。なぜここを切り取ったのか。正直なところ「フィッシュ・ラーゲ」部分は余計と言えば余計なので、今から読むのであれば電子書籍の復刻版『灰になる少年』でじゅうぶんだろう。

★★★★(4.0)

 

www.amazon.co.jp