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相変わらずの良セレクション。ホラーアンソロジーのスタンダードとしてもお勧め-『恐怖 角川ホラー文庫ベストセレクション』

『恐怖 角川ホラー文庫ベストセレクション』

朝宮運河(編)/2021年/286ページ

ショッキングな幕切れで知られる竹本健治の「恐怖」を筆頭に、ノスタルジックな毒を味わえる宇佐美まことの図書館奇譚「夏休みのケイカク」、現代人の罪と罰を描いた恒川光太郎の琉球ホラー「ニョラ穴」、誰からも省みられないホームレス男性の最期を描いた平山夢明の衝撃作「或るはぐれ者の死」など、現役の人気エンタメ作家による力強い作品と、小松左京のアクロバティックな発想が光る怪奇小説「骨」、土俗的恐怖とフェミニズム的視点を融合させた直木賞作家・坂東眞砂子の「正月女」、耽美的なゴシックミステリーで没後も熱烈なファンをもつ服部まゆみの和風人形怪談「雛」、昨年11月惜しくも急逝した小林泰三氏渾身の一作「人獣細工」などレジェンド級の名品が、ホラー小説の豊かさをあらためて提示する。心霊・怪談系の作品が多かった『再生 角川ホラー文庫ベストセレクション』に対し、『恐怖 角川ホラー文庫ベストセレクション』にはSFや犯罪小説、ダークファンタジーなどの発想を用いた作品も収録。この二冊合わせ読むことで、日本のホラー小説の神髄を味わうことができる。

(Amazon紹介ページより)

 

 ホラー初心者にも勧めたい良アンソロジー。前作『再生』と同じく、ベストセレクションの名に偽りなし。面白い短編は何度読んでも面白い。巻頭の「恐怖」は、前巻の「再生」を彷彿とさせるようなホラーらしいホラーであり、巻頭作&表題作の貫禄はじゅうぶん。「人獣細工」はもはや説明不要の傑作。「或るはぐれ者の死」は平山夢明成分100%のドライでウェットな一編。「夏休みのケイカク」は、恐怖度だけなら宇佐美まことにはもっと厭な話も多いのだが、ファンタジックな世界がラストで心冷える展開に一変するあの手際は確かに印象深い。

 ベストをあえて選ぶなら『平成怪奇小説傑作集1』にも収録されていた「正月女」。大病を患い、久しぶりに夫の実家に帰るもすでに居場所はなく、死を待つばかりとなった主人公が感じる、どこまでも深く、深く暗い孤独。小説を読んでここまで絶望的な気分になる体験もなかなか無い。小松左京をこのアンソロジーに持ってくるのは少々ズルいと思ってしまうほどだが、「骨」のスケールの大きさ、序盤で感じる違和感がそのまま真相につながる伏線の張り方のうまさはさすが匠の技である。初読だった「ニョラ穴」は筋立て自体はオーソドックスなものだが沖縄方言の「異界」っぷりがアクセントとして上手く、「雛」も気のいい登場人物らが巻き込まれる超ビジュアルの怪異に息を呑まされた。前巻同様、ホラーアンソロジーのスタンダードとしてもお勧めできる内容だ。

★★★★★(5.0)

 

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