『山内くんの呪禁の夏。』
二宮酒匂/2016年/232ページ
小学六年生の山内くんは生まれもっての災難体質。昔そんな彼にお守りをくれたのは、口から火を吹く不思議な子・紺だった。「おまえに見せてやるよ。あっち側の世界を。隠り世を」紺と再会した山内くんは、彼女によってこの世ならぬものが見える目にされてしまう。紺とその仲間たちと一緒に、次々奇妙な事件に遭遇する山内くん。友情、呪い、神かくし、そして恋ー忘れられない夏がはじまる。青春オカルトファンタジー。
(「BOOK」データベースより)
事故や事件に巻き込まれやすい、災難体質の小学6年生・山内くん。アパートが火事になってしまったため、夏休みをパパの生まれ故郷である田舎で過ごすことになった山内くんは、幼いころ自分に「牙笛」をくれた子・‟コン太”と再会する。これまで災難に巻き込まれそうになった時、この牙笛が幾度も助けてくれたのだ。経帷子のような白い浴衣に赤い鼻緒の下駄、そして口元から青白い火がちろちろと燃えるコン太は明らかにただ者ではないようだった…。
「小説家になろう」掲載作品の文庫化で、本書は前後編の前編にあたる。不幸体質の気弱な少年が、夏休みの田舎で不思議な存在に出会う…という王道展開のノスタルジックなオカルトファンタジーである。
プロローグでは、取り残された犬を助けるために山内くんのパパが炎に包まれるアパートにひとり突入。消防隊も手が出せないほどの火勢を見つめつつ、ランドセルをぎゅっと抱きしめる山内くん…という描写のあと、身長2メートル体重102キロ、元ヤンキーで現在は喫茶店のマスターであるパパがバイクに跨ったままアパート2階の窓を突き破り、犬を救出して現れるという想定外過ぎる展開が起きるので笑ってしまう。こんなに強いキャラを最序盤から出してはいけない。キャラクターはツボを押さえており、強大な呪師の一族であるコン太こと十妙院紺とアク強めの一家、共に夏休みを過ごす田舎の子供たち、‟アカオニ・アオオニ”コンビとして恐れられる不良中学生の阿嘉島と青丹と、必要なものはすべて揃えてくれた感がある。最近ちょっと見ないほどのベタな「お前女だったのか」案件に加え、コン太によって「見える」体質にされてしまった山内くんが、実は数々の災厄に対抗するために日々の鍛錬を欠かさずにいたショタマッチョであることが判明したりというスパイスも効いている。ただやはり本作は前編でしかなく、話としてはだいぶ物足りない。物語が一気に動く次巻との併読が必須である。
★★☆(2.5)