『ハサミ少女と追想フィルム』
佐島佑/2014年/323ページ
美術大学に入学した内気な男子、道郎は、おかしな先輩・桧垣に誘われてホラー映画を作ることに。桧垣に渡されたホラー映画を見ていると、なんと画面から、大ハサミを持った少女が飛び出してきた!カルミンと名乗る少女につきまとわれるようになった道郎は、この世のものではない存在“ハザマ”が見えるようになり…。映画作りに奔走しながら、ハザマが起こす不思議な事件をカルミンと解き明かしてゆく、青春ホラーミステリ!
(「BOOK」データベースより)
「第一話 ハサミ少女と忘却の刻」-美術大学1年生の都築道郎は、少々うさん臭い3年生の先輩・檜垣鷹士にサスペンス映画のシナリオを書かないかと誘われる。研究のため、檜垣から借りたホラーDVD『アンダーベッド・シザーズ』を鑑賞していると、ホラー映画の中から巨大なハサミを持った金髪の美少女・カルミンが現れた。吹き替え映画だったおかげで言葉は通じたが、自分をまったく怖がらない道郎に腹を立てたカルミンは姿を消す。
映画の出演者を探す檜垣と道郎は、道郎のゼミ仲間である速水理緒を誘う。ストーカーにつけられているという理緒の悩みを解決するため、彼女の家へ向かう道郎たち。無事ストーカーは追い払った…と思ったその時、カルミンが道郎のそばに現れ、銀色に輝くハサミが事件の真相を示した…!
「第二話 廃棄の姫君」-カルミンの出現で壊れてしまったノートPCを買い替えるため、道郎は新たなバイトを探すことに。檜垣の先輩・星野朱里に紹介されたのはゴミ屋敷の清掃だった。だが、カルミンがこの世界と別の世界で揺らぐ存在「ハザマ」の存在を感知する。ゴミに埋もれたマネキン人形と、そのかたわらに落ちていた指輪を繋ぐ半透明の“鎖”。カルミンのハサミが鎖を断ち切ったとき、過去の映像がフィルムのように道郎の中で再生される…。
「第三話 黄昏ノート」-サスペンス映画の出演者を探す道郎は、ゼミ仲間から噂で聞いた「書き込んだ願いを叶えてくれる“黄昏ノート”」を偶然見つけてしまう。ノートを手にする道郎の前に現れた映画学科の先輩・柳は、映画に出てくれそうな生徒たちを紹介してくれ、写真学科の八森昌樹が参加してくれることになった。だがその後カルミンが現れ、「なんで気がつかないんだ?」と呆れ顔で話す…。
「第四話 禁断のスイーツ」-ゼミ仲間の越前涼子の様子がおかしい。元ヤンという噂が立ったり、「顔を返せ」とつぶやきながらうろついたり…。どうやら涼子はハザマに憑かれているらしい。以前、理緒といっしょにサークル巡りをした時に何かが起きたのでは? 道郎と理緒はグルメサークルに行き、涼子がそこでクマの形のプリンを食べたことを知る。元ヤン…顔…プリン…。道郎の中で真相が1本の線でつながった…!
「第五話 水銀のジレンマ」-なかなかシナリオを書けない道郎は、刺激を受けるため、理緒の知人・神部サキの劇団を手伝うことにする。だがサキの劇団は、以前メンバーの谷月美晴が事故死して以来、彼女に呪われているという噂があった。演目「水銀のジレンマ」の配役発表の日、看板女優の翠を差し置いて、稽古は初参加という真由が完璧な演技をこなす。その姿はまるで美晴が生き返ったかのようだった。そして道郎とカルミンは、意外な場所からハザマの“鎖”を発見する…!
平凡な主人公・道郎、自称殺人鬼のカタコト系金髪少女・カルミン、飄々としているが映画作りへの意気込みは真剣な先輩・檜垣、後輩に怪しげなバイトを紹介する霊感持ちの美人先輩(実はスキンヘッド)・星野、わりと普通目のヒロイン・速水、思い込みが激しくめんどくさい男子・八森と、登場人物はそれなりにキャラが立っている。美術大学という舞台ならではの、彼らの軽妙なやり取りは面白い。楽しく読めはするものの、ハザマの起こす事件がどうもライト過ぎるというか、「ホラー映画から美少女が出てきた」以外にホラー要素が皆無なのはちょっと物足りない。とは言え「第五話 水銀のジレンマ」は、制作論とミステリとオカルトが見事に融合した読み応えのある話だった。
正直、大学が舞台の『ホーンテッド・キャンパス』シリーズとカブってる印象もなくはない。あちらがホラーの雰囲気も濃厚な青春ミステリなのに対し、「ハサミ少女」はコメディ要素多めなヒューマンドラマといったところ。
★★☆(2.5)

