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主人公が「ただの岩井志麻子」過ぎる官能ホラー。トロピカルに湿った妖気にむせる-『楽園』

『楽園(ラック・ヴィエン)』

岩井志麻子/2003年/141ページ

灼熱の夏が永遠に続く国ベトナム。ホーチミンを訪れた「私」は夏の国の男に出会う。彼は綺麗な南の地獄そのものだった―。名前も素性も知らぬまま、ただ享楽的なセックスに溺れるふたり。―床惚れ―セックスがよくて惚れてしまうのは男女が堕ちる最も苦しい地獄と天国なのかもしれない。『ぼっけえ、きょうてえ』の著者がベトナムを舞台に狂おしくも甘美な情欲の世界を描いた官能ホラー。

(「BOOK」データベースより)

 

 主人公があまりにも岩井志麻子本人な感じで、ただのベトナムセックス旅行記ではないかと勘繰ってしまうが、実際のところ141ページ中120ページまではただただベトナムの美青年とセックスしているだけである。ホラーとして見れば結末は凡庸なものの、めくるめく怒涛のような官能描写が本作のキモなので、そこはとやかく言うことではない気がする。とは言え、当たり前のように顔を出す亡霊たちの描写には、古典的ながらも芳しいホラーの息吹が感じられる。作者の抒情的な文章に乗せられ、読者も序盤10数ページの段階で、ベトナムという国が持つ魔力にどっぷりと浸りきってしまうのだ。

★★★(3.0)

 

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