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友人の連続殺人を止められるか? 孤独な幻視者の葛藤を描く青春ミステリ-『殺人と幻視の夜』

『殺人と幻視の夜』

織守きょうや/2024年/256ページ

大学生・久守は触れた人の後ろ暗い秘密が視える幻視能力に、幼い頃から苦しんできた。しかしある日、美大生の佐伯に触れ、話題になっている残忍な連続殺人の犯行を幻視してしまう。この事件を止めるべく、懐に入り、証拠をつかもうとするものの、佐伯と交流を重ねるうちに、孤独だった久守は本当の絆を感じ始める。犯行を止めるため、能力を駆使する彼の友情はどんな結末を迎えるのか?一気読み必至のノンストップ・ミステリ!

(「BOOK」データベースより)

 

 大学生の久守一は、触れた相手の後ろ暗い秘密が見えてしまう体質。人付き合いを避けがちになる自分を変えるため、ホームレスの支援などを行うNPO法人「ひだまり」でボランティアを始めた久守だったが、ある日、偶然触れたアッシュグレーの髪の男が死体の前で佇んでいる光景を幻視してしまう。死体はホームレスの男性で、いま世間を騒がせている連続殺人事件の被害者と一致していた。あの男が殺人事件の犯人に違いないと推察する久守だったが、当のその男・美大生の佐伯優が「ひだまり」のボランティアとして採用されたことを知る。

 新たな殺人を未然に防ぐため、久守は佐伯に接近する。ややエキセントリックながらも人間的魅力にあふれる佐伯と交流を重ねるうち、久守は彼に友情を感じ始めていた。だが佐伯が被害者の死体を撮影していること、彼らと同じくボランティアに励む後輩・真野莉子が佐伯と相思相愛らしいこと、佐伯が真野をモデルに「死」のイメージ濃厚な絵画を描いていること、自分が見た未来の幻視は絶対に変えられないことを知り、久守はついに決断を下す…。

 

 二見書房の『幻視者の曇り空――cloudy days of Mr.Visionary』を加筆・改題した作品。人に触れると、その人の未来や内面がわかってしまう能力者の苦悩…というテーマ自体はそう珍しくはないものだが、「幻視した未来を変えるため、殺人者と親交を深める」というのは初めて見た気がする。主人公・久守の内面描写が細やかなため、彼がそのような手段を取った経緯も無理なく理解できる。

 おそらく、多くの読者は早い段階で真相に気づくと思うが、そこは正直どうでもよい。孤独な主人公が友情を知り、そして裏切られ、人間を理解することの難しさを知る。そう書くと単に苦いだけの話のようだが、ラストには不思議と悲壮感は無い。自分のために、他人のために、友のために最善を尽くした久守の成長を描く、青春の物語である。

★★★(3.0)

 

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