『山内くんの呪禁の夏。夏の夕べに約束を』
二宮酒匂/2016年/240ページ
呪禁師の少女・紺によって、この世ならぬものが見える目にされてしまった山内くん。彼に呪いをかけた少年・青丹との対立や、自身の血の秘密といった出来事を経て、暑く長い夏が終わろうとしていたーが、「事件」はまだ終わっていなかった。「僕にはこの闇が見える。いまからは僕が君の目になる。君は死なない。絶対に」紺と二人、山内くんは凄惨な戦いに挑む。友情と恋が詰まった青春オカルトファンタジー。
(「BOOK」データベースより)
アオオニこと青丹の正体は、かつて強大な力を持っていた祝部(はふりべ)の分家の末裔だった。同じく分家の末裔である山内くんを呪殺せんと企む、アオオニとの呪術合戦に挑む紺。いっぽう山内くん本人は、紺の祖母である十妙院銀から、自分の出生に関する衝撃の事実を聞かされていた。さらに、仮に紺が負けるようなことがあれば、その強大な力の胤を得るため、アオオニを紺の婿として迎え入れることもやぶさかではないということも。加速する呪術合戦と恋の行方。そして村で起きていた神隠し事件の真相が、最大の恐怖として山内くんと紺の前に立ちはだかる!
前巻の時点で貼り巡らされていた伏線をきれいに消化、少年の成長と消失を描きつつさわやかな地点に着地したジュブナイルのような味わいである。その割にはやたらグロかったりおっぱいタッチしたりと、対象読者層がよくわからないところもあるが。前巻終盤の急に格闘者として覚醒する山内くんもそうだが、クライマックスの『デッドバイデイライト』みたいな空間での殺人鬼とのチェイスなどはアンバランスなまでに解像度が上がっている。言っちゃなんだが、こういうところも含めて「なろう」掲載作品という気はする。どうせ文庫化するならWeb掲載バージョンと違う何かも読みたかったところだが。
終盤の展開、特に紺が山内くんにとある術を施す場面の熱さなどは特筆モノ。トータルで見ればすべて呪禁師という特殊過ぎる家柄の十妙院家が元凶なのだが、そうしたしがらみを友情と絆で乗り越えていく物語でもある。一発ネタのような死霊「もんじゃくん」が実は重要な立場のキャラだったりという小ネタも相変わらず効いている。
★★★(3.0)