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全部読めるといいですね。

エグさとエモさが限界値、魔法少女もの最狂にして最高の変異亜種-『魔女の子供はやってこない』

『魔女の子供はやってこない』

矢部嵩/2013年/336ページ

小学生の夏子はある日「六〇六号室まで届けてください。お礼します。魔女」と書かれたへんてこなステッキを拾う。半信半疑で友達5人と部屋を訪ねるが、調子外れな魔女の暴走と勘違いで、あっさり2人が銃殺&毒殺されてしまい、夏子達はパニック状態に。反省したらしい魔女は、お詫びに「魔法で生き返してあげる」と提案するが―。日常が歪み、世界が反転する。夏子と魔女が繰り広げる、吐くほどキュートな暗黒系童話。

(「BOOK」データベースより)

 

 小学生の夏子と魔女の塗絵(ぬりえ)、2人の友情と狂気と悪夢と成長を独特過ぎる文体で描く孤高の傑作。出鱈目ぶりでは前作『保健室登校』に一歩譲るものの、そのぶん比較的読みやすい(第4話のルビ芸やまったく意味のない順番入れ替えなど、ヤンチャな箇所はいくらでもあるのだが)。

 容赦なく人は死ぬし、使い魔キャラの位置にいるのは「頭の中身が幼児レベルの白人中年男性」だし、人の悪意を容赦なく描くし、エグくて悪趣味なのは間違いないのだが、いわゆる「魔法少女モノ」のエモさを完璧なまでに特盛で味わうことができるのもまた本作の特徴。方向性は完全に違うものの、『タコピーの原罪』『魔法少女まどか☆マギカ』とどことなく似た雰囲気を感じるのは、エグさとエモさの相乗ぶりが共通しているからかもしれない。

 

 全6話構成で、冒頭に作者自身による町の全景イラストが、1話と最終話に表紙を担当した小島アジコの挿絵が掲載されている。


「魔女マンション、新しい友達」-安藤夏子は拾った魔法のステッキを届けるため、友達の餡子、小倉、ずん田、うぐいす、村雨と共に魔女の住むげろマンションへ向かう。「地獄は来ない」の合言葉で、魔女の部屋への扉が開かれた…。夏子以外は全員惨死したが、魔女のぬりえちゃんと新しく友達になれたのでした。
「魔女家に来る」-夏子の家に遊びに来たぬりえちゃん。流れで夕食、お風呂、一泊の展開になる。ぬりえちゃんの魔法で2人の寝る2段ベッドは船になり、町は水を湛えた海となった。月明りの中、魔法の航海へと旅立つ2人。その頃、通り魔が女性の腹をナイフで裂いていた。
「雨を降らせば」-同級生のMちゃんのお父さんが事故で死んでしまった。「お父さんの写真が欲しい」というMちゃんの願いを魔法で叶えるため、お父さんの遺体の皮を剥ぎはじめる2人。無事完成した小さなお父さんでステキな写真を撮ろう!

「魔法少女粉と煙」-母親を亡くしたビルマ君に手術を受けさせるため、母親に変身して励ましてほしいという依頼を受けた2人。ちぎり絵のように紙を貼り付けられ、お母さんに変身した夏子はビルマ君の病室へ。そこで待っていたのは皮膚病の全身を掻きむしり過ぎて、ぐじぐじの肉の塊と化した物体だった。

「魔法少女帰れない家」-1週間の休暇が欲しい、と言う顔なじみの奥さんに頼まれ、またもや母親に変身することになった夏子。だがあまりに過酷な主婦の生活に疲れ果てて号泣してしまうし、死人も出た。

「私の育った落書きだらけの町」-ぬりえちゃんが魔法の国に帰る時がやって来た。自分の昔の友達が魔女の家で全員惨死したことを思い出した夏子はぬりえと仲たがいし、1人で「いなくなった猫を探してほしい」という少女の願いを叶えようとするが、少女ともども変質者に誘拐されてしまう。

 

 そしてぬりえは去り、時は過ぎ、長い長いエピローグが始まる。夏子は中学生になり、高校生になり、大学生になり、大人になる。結婚し、子供が生まれ、孫が生まれ、親は死に、夫は死に、夏子はまたひとりになる。ぬりえはかつて語っていた、魔女は死んだら必ず地獄へ行くのだと。だが地獄のほうから来ることはない、自分から歩いていくのだと。魔法に満ちた小学生の世界が終わりを告げた後、本作の狂騒ぶりは鳴りを潜め、トーンも文体も変貌する。地獄は来ない、魔女はやってこない、自分はどこへ歩いていくのか? 「泣けるホラー」という惹句はいくらでもあるが、「泣けるホラー(だかなんだかよくわからないキチガイ魔法少女小説)」は本作が唯一であろう。

★★★★★★★(outstanding)