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角川ホラー文庫1、2を争う奇書。異常な文章で綴られる死体ゴロゴロの学生生活-『保健室登校』

『保健室登校』

矢部嵩/2009年/302ページ

とある中学校に転入した少女。新しい級友たちは皆、間近に迫るクラス旅行に夢中で転入生には見向きもしない。女子グループが彼女も旅行に誘おうとすると、断固反対する者が現れて、クラスを二分する大議論に発展。だが、旅行当日の朝、転入生が目の当たりにした衝撃の光景とは―!19歳で作家デビューを果たした異能の新鋭が、ごく平凡な学校生活を次々に異世界へと変えていく。気持ち悪さが癖になる、問題作揃いの短編集。

(「BOOK」データベースより)

 

 一言で言えば“異常”であり、角川ホラー文庫の中でも1、2を争う奇書である。「駅子」「専子」「床子」「テレコム」等の適当なネーミング(舞台となる中学校も「人殺し中学校」なので完全にふざけている)、句読点が異様に少ない会話文、意味は分かるけど一度も聞いたことのない言い回し、なんの説明もなく登場してそれっきりの固有名詞、頭の中に浮かんだまま書き連ねてるんじゃないかと思うほどのダラダラ感など、文章すべてが異常要素のみで構成されている。それでいて面白いのだから不思議なものだ。「気持ち悪さが癖になる、問題作揃いの短編集」という惹句が的確過ぎる。

 

 「クラス旅行」-P県から引っ越してきた専子だが、新しい四組のクラスメイトとは微妙にそりが合わない。先生の引率で四組全員がクラス旅行に行くと聞き、自分も参加して仲良くなりたいと思う専子だったが、旅行の当日に大遅刻をかましてしまう。そして惨劇が起き、校長先生も死んだ。

 「血まみれ運動会」-駅子のクラス・一組で運動会のリレーの練習をすることになるが、なかなかうまくいかず皆にいらだちが募る。走れない場合は代走が出てもOKということに気づいた生徒たちは、足の遅い生徒を運動会に出られないようにするため過激な手段を取ることに。そして惨劇が起き、校長先生も死んだ。

 「期末試験」-四組から五組に移った専子。国語教師の常備先生は、五組の昼べさんに恋していたが、無論そんな関係が許されるはずがなかった。専子は良かれと思って常備先生に恋愛アドバイスをするものの、曲解した常備先生は自分の顔をカッターで切り刻みながら「昼べ、一緒に整形しよう!」と迫るのだった。そして惨劇が起き、校長先生も死んだ。

 「平日」-東が学校に持ってきた宇宙人が誰かに盗まれてしまう。クラスメイトを疑う東だが犯人は見つからず、クラス内の雰囲気は悪くなる一方。可絵子は事件解決のために奔走するが、惨劇が起きる。

 「殺人合唱コン(練習)」-合唱コンクールの練習に明け暮れる駅子たちだったが、リーダーの武蔵野さんの腹部が爆裂し腸が出てしまったため、伊里田さんと佐分利さんが新リーダーに就任。「うどんを食べた後にげろを吐く」「ゴキブリの頭を投げる」「トラバサミで足首を挟む」等の斬新な練習方法に反発があがるが、以前より声が出るようになったと肯定するクラスメイトも少なくなかった。そして惨劇が起き、合唱コンクールが始まったがすぐ終わった。

 

 話の大筋を見ての通り、もうタチが悪いとしか言えないデタラメな内容なのだが、そこかしこに垣間見える斬新かつ的確な表現には唸らされた。思春期の不安定さをそのまま切り取り、真空パック保存してお出しされたかのような印象を受ける。ホラーファン必読の奇書と言っていいだろう。

 

★★★★★(5.0)

 

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