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人に寄生するエイリアンの侵略、か? 不安定な心理がもたらす幻覚ホラー-『指』

『指』

栗本薫/2003年/296ページ

長細く形のいい指…。それが落ちていたのは、林間学校のベッドの上だった。見つけたのは祐市という気弱な少年だった。彼は、その気味の悪い指に悩まされるのだが、そのことを誰にも打ち明けられずにいた。やがて次々と起こる奇怪な出来事。それは祐市の妄想なのか、それとも…。外界から閉鎖された環境の中で恐怖に脅かされる少年の心理をリアルに描く、心理ホラーの傑作。

(「BOOK」データベースより)

 

 内気で気弱な小学5年生・祐市少年は複雑な家庭事情もあり、先生たちからは何かと構われていたが、クラスにはいまいち馴染めていなかった。5年生の1週間にわたる林間学校が始まったが、親しい友人のいない班でうまくやっていけるのか、心のなかは不安でいっぱいな祐市。しかも、宿舎となる寮のベッドの上で、「指」が落ちているのを見つけてしまう。誰かのいたずらなのか? でも、ちぎれた指が勝手に動き出すなんてことがあるだろうか。そして祐市の周りに起きる奇妙な出来事の数々。視界をかすめてどこかへ走り去る指。顔中の穴から指が突き出たクラスメイトが、祐市を仲間にしようと襲い掛かってくる悪夢。寮のおばさんや先生の手から指が消える幻覚。いったいこの林間学校で何が起きようとしているのか…。

 

 クラスメイトや先生が「指型のエイリアン」に乗っ取られてしまった! という侵略モノのようなあらすじだが、本作はすべて祐市少年の視点から一人称で描かれている。彼の精神状態がかなり不安定であること、すべての怪奇現象が「気のせい」または「夢」で片づけられるレベルであることもあり、真相は不明のままラストを迎える。個人的にはもうちょっとはっきりした結末を読みたかった気もするが(そもそもなぜ「指」なんだろう?)。祐市少年は本当に「壊れて」しまったのか、それともこれも思春期の少年の「成長」の過程に過ぎないのか。それすらも意見が分かれそうである。

 ちなみに栗本薫のホラー作品には『家』『町』『指』のほか、『顔』『壁』『鬼』『闇』という漢字1文字つながりの作品群があり、これらはハルキ・ホラー文庫で刊行されている。この7編と短編3作をまとめた電子書籍『栗本薫・中島梓傑作電子全集27 [ホラー]』が配信中だ。

★★★(3.0)

 

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