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絶叫、咆哮、鬼気迫る形相。いい顔特盛り、グロ描写連発のトラウマ作『妖虫』も完全収録-『死霊の叫び』

『死霊の叫び ~古賀新一恐怖傑作集~』

古賀新一/1997年/391ページ

手首が蠢めき、人間を飲み込む怪物――。脳や心臓が消失し、昆虫のように脱皮する奇病に冒された人間が増殖する戦慄を描いた「妖虫」。健気な少女に浮遊霊がしのびよる「死霊の叫び」、静かな村に起こった怪奇な事件「守宮のたたり」など、恐怖が襲いくるオカルト・ホラーの傑作コミック。

(裏表紙解説文より)

 

 古賀氏が活躍していた70年代よりも、90年代前半の比較的新しめの作品が多めに収録されている。傑作集と呼ぶにはどうにも焦点が定まっていない気もするが、わりと満足感は高めな一冊。

 「御手洗(トイレ)」「守宮のたたり」は、少女がひたすら理不尽、かつグロい結末を迎えるというオーソドックスなホラー。「カズラ」は時代劇もので、磔にされた罪人を刺し殺すことで日銭を稼ぐ貧しい少年・カズラの物語。古賀ホラー作品は登場人物が恐怖におびえる顔、中でも特に「目」が印象的なのだが、この作品も辛い境遇に置かれどんどん濁っていくカズラの目がたいへん怖い。最後に見せる鬼気迫る表情もまたすさまじい。「消えた少年」は見知らぬチンドン屋の後をついていった少年が行方不明になる…という都市伝説チックな話だが、登場するチンドン屋の絵づらが凄い。もうこの見た目だけで100点。「永遠の命」はタイトル通りの怪異が登場する話だが、その性質と生まれた経緯がなかなかユニーク。こんなの初めて見た。本書の半分以上を占める240ページの長編「妖虫」は人間が昆虫化していく奇病を描いたものだが、そのビジュアルが悪魔としか形容できない禍々しいモノ。昆虫になったり植物になったり幼児になったり未来の人類になったりと、なんだかとりとめのない部分もあるが勢いとインパクトは十二分にあり、妙な満足感がある。表題作「死霊の叫び」とラスト「小さな小さな魂」は実話怪談風の短編で、「妖虫」の暴力的なボリューム感のあとではどうしても小粒な印象。

★★★(3.0)

 

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