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嫁ぎ先は理想のしあわせ家族! かと思いきや、わずか20ページで不穏な雰囲気に…-『ファミリー』

『ファミリー』

森村誠一/1993年/264ページ

最愛の恋人を不慮の交通事故で亡くした傷心の弓子は、数か月後、上司の薦めで見合いをし、結婚した。優しい夫と、理想的とも思える仲の良い家族関係。彼女はとても幸せだった。だが、しばらくすると、少しずつ微妙な違和感を覚え始めた。家族間の円満さの裏側に異常を感じたのだ。そして、それは彼女の胸の中で次第に膨れ上がっていった…。怪奇サスペンス。

(裏表紙解説文より)

 

 婚約者を事故で亡くし、傷心状態にあった弓子は、上司の勧めで見合い結婚をする。相手の羽室裕也は広告代理店勤務で、同居している父親・徹三と母親・繁子は教養を感じさせる上流階級の人間。弟の一直、妹の睦子も弓子のことを慕ってくれる。文句がないほどの理想的なファミリーに囲まれ、弓子は新たな生活をスタートさせる。

 だが羽室家の人々はどこか奇妙だった。裕也と繁子、一直と睦子はあまりにも親密過ぎるし、これだけの上流家庭なのに家を訪ねてくる知人や親戚は誰もいない。人当たりのいい隣人・沖野家に対しても、なぜか邪険な態度を取り続けている。まるで羽室家が、ファミリー以外の人間を拒んでいるかのようだ…。やがて弓子は妊娠するが、そのことを夫や家族にも言い出せずにいた。そして沖野家の飼い猫が姿を消したことをきっかけに、弓子は羽室家の恐るべき正体を知る…!

 

 表ヅラは理想的な一家に嫁いだ女性が、しだいにその異常性に気づくものの、すでに逃げられる状況ではなかった…というわりとオーソドックスなサイコサスペンス。羽室家の連中、かなり序盤で言い訳のしようがないイカレっぷりを発揮するので、「実は主人公がノイローゼ気味なだけでは?」などという可能性は早々に潰される。

 弓子が自分たちを疑っていることに気づいた羽室家の人々は、ついに実力行使に出る。座敷牢に監禁され、絶体絶命のピンチに陥る弓子だったが、何者かの手によって羽室家の人々がひとり、またひとりと姿を消していくという予想外の事態が発生。この家ではいったい何が起きているのか…? 

 緊迫感を途切らせることなく、すらすら読ませる筆致はさすがなのだが、事件の真相は「まあ、そういう方向性だろうな」としか言いようがない、こちらの予想通りのもの。解決方法がかなり強引で力技なため、予想は裏切らず期待は裏切るという少々肩透かしな結末を迎える。それにしても裕也の「日本人形といっしょじゃないと眠れない」という設定、なんだったんですかね。

★★☆(2.5)

 

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