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原発事故で引き裂かれた双子姉妹。汚染区域でサバイバルする少年少女。鮮烈な結末を迎える異形の傑作-『プルトニウムと半月』

『プルトニウムと半月』

沙藤一樹/2000年/293ページ

原子炉の爆発がきっかけで、双子の姉妹・華織と紗織は別々の家に預けられた。しかし失意の華織は自殺の名所とも呼ばれる放射能汚染地域へと自ら踏み込んでしまう。立入禁止の汚染地域で生き長らえる華織、非汚染地域で暮らす紗織、互いに相手を強く求めながらも、決して満たされることのない日々は、ついに意外な結末を迎えた…。第4回日本ホラー小説大賞短編賞受賞の『D‐ブリッジ・テープ』に続き、世界の果てに佇む孤独な魂の反抗と狂気を、まったく斬新な表現方法で描いたホラーワールド。

(「BOOK」データベースより)

 

 原発事故で家庭が崩壊し、双子の姉妹・華織と紗織はそれぞれ別の家へ預けられることになった。だが執拗ないじめに耐え兼ね、華織は引き取り先の親を殺害してしまう。行く当てを無くした華織は原発周辺の立ち入り禁止地域・ハーフムーンへと身を寄せる。そこには様々な理由で社会を捨てた人々が暮らしていた。


 序盤から2人の異なる人物の視点でそれぞれの境遇が語られるため少々戸惑うが、この2人が華織と紗織である。語り手の1人は和也という少年なのだが、彼の正体は甲状腺の異常により成長が止まり、名前を変えて暮らす華織である(前半で明かされる事実だし、物語の根幹に関わるギミックではないのでこの程度のネタバレは許されるだろう)。心中しに来た一家から幼子を引き取り、咲子と名付けて妹のように育てる華織=和也。だが本当の妹である紗織もまた、姉となる存在を渇望していた。原発事故から9年。とある出来事をきっかけに、ハーフムーンへと足を踏み入れる紗織。紆余曲折を経て出会ったのは、あの頃と変わらない幼い姿の姉。半月は合わさり、1つとなる。

 作者のデビュー作である『D-ブリッジ・テープ』と共通するモチーフが非常に多く、セルフリメイクと言えるかもしれない。社会から見捨てられた土地。心の支えとなる“妹”の存在。爆弾、そして爆発。『D-ブリッジ・テープ』は感性のみで突っ走った感のある寓話的な中編だったが、本作は細やかな心情・情景描写のおかげで、「放射能汚染地域でサバイバル生活を送る少年少女」という設定にリアリティを持たせることに成功している(これが3.11以前に書かれた作品だから恐れ入る)。キャラクターも非常に印象的で、弟妹のためならライフル銃を不良相手にぶっ放すことも厭わないド根性お姉ちゃん・須藤真理(趣味はドレスで着飾ること)には“癖”を感じる。

 ホラーとはまた異なるジャンルの作品ではあるが、その鮮烈かつ壮絶なラストには『D-ブリッジ・テープ』と同等かそれ以上の衝撃を受けた。生きることの哀切が濃縮された、どこを切り取ってもほろ苦い一冊。

★★★★★(5.0)

 

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