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作家に歪んだ独占欲を向けるストーカー愛読者。よくあるテーマだが抜群に怖い!-『愛読者』

『愛読者』

新津きよみ/1998年/291ページ

駆け出しのミステリー作家・仁科美里のもとに、読者からのファンレターが二通届けられた。片方の差出人は、中学を卒業してから音信不通だった友人・柚子。そしてもう一通は「愛読者」と名乗る謎の男からの不気味な手紙……。この二通の手紙をきっかけに、美里の生活は大きく変わっていく。美里に近づいてきた柚子の真意は、そして「愛読者」の正体は? 驚愕のラストへ向けて読者を誘う、傑作サスペンス・ホラー!

(裏表紙解説文より)

 

 新人ミステリー作家、仁科美里のもとに2通のファンレターが届く。1通は、中学時代の先輩だった作家志望の女性・仁科柚子からのもの。もう1通は、性的な下卑た妄想を書き連ねた自称「愛読者」からのものだった。
 美里と再会した柚子は、「自分の旧姓をペンネームに使ってくれて嬉しい」「美里には絶対に才能があると思っていた」と嬉しげに語る。さらには赤字で添削した美里の原稿を突きつけ、こう直したほうがもっとよくなると“アドバイス”し始めるのだった。絶句する美里をよそに、柚子の暴走は止まらない。彼女の部屋に押しかけ、手料理を渡し、手紙を勝手に開け、美里にプロポーズしてきたイラストレーター・門倉のことを罵倒する。さすがに辟易した美里が、「雨宮麗」という別のペンネームでポルノ小説を書いていることを告げると、ショックを受けた柚子はそのままどこかへ姿を消してしまう。
 ひとまず安堵した美里だったが、ある日、自分の出したゴミを漁っている不審な男・渋沢を発見し、問い詰めるも逃げられてしまう。まさか、「愛読者」の手紙を出してきたのは渋沢だったのか。さらに後日、美里が実家に帰ると「お前の娘はポルノを書いている」と告発する手紙が届いていたことを知る。
 自分に嫌がらせをしているのは誰なのか。何食わぬ顔をして再び自分の前に現れた柚子を疑う美里だったが、柚子は「あなたの執筆の邪魔になることをするわけがない」と涙を流す。一瞬ほだされかけるも、柚子が自分と門倉の新婚生活にも介入する気満々だと知り、美里は戦慄する…。


 作家の熱狂的なファンが、歪んだ愛情と独占欲でストーカーと化す。ホラーファンならスティーヴン・キングの『ミザリー』をまず思い出す設定だが、本作の恐怖度は決して『ミザリー』に負けていない。“自分に都合のいい勘違い”を重ねたあげく、強固な妄想に取りつかれてしまった柚子の姿が本当に怖いのだ。一見、優しく献身的でありながらも、会話を続けるうちに「まったく話が通じない無敵の人物」であることが明らかになっていく過程には心底ゾクゾクする。ちなみに、柚子は確かに激ヤバストーカーなのだが、少なくとも美里本人には手を上げない時点で『ミザリー』のアニーとはまた違うタイプの狂信者である。個人的には柚子のほうが身近なリアリティがあると思う。
 作家のストーカーを描くだけなら、それこそ『ミザリー』の亜種で終わってしまうが、本作は「愛読者」という、もうひとりのストーカーを出すことで展開にオリジナリティを生み出している。柚子じゃないとすると、「愛読者」は本当に渋沢なのか? いろんな意味で“意外”なその正体が明らかになったのち、物語は厭な方向へと加速していき、最後は柚子ととある人物との激突に美里が巻き込まれるという最悪の展開を迎えるのだ。
 中盤までの展開が完璧だからこそ、いきなり“前世”の概念について語られるエピローグの唐突さは少々気になる。上質なサイコサスペンスが急にオカルトじみた世界観になってしまう違和感は拭いきれない。ちなみに本作の幕切れ自体は優しくも前向きなものだが、ここまで怖がらせてくれたのだから、最後まで地獄絵図じみたバッドエンドを見たかったような気もする。これはまあ個人のワガママに過ぎないが。

★★★★(4.0)

 

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