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原稿に書かれた怪異“崩れ顔の女”が編集者を襲う! エピソードゼロとしては完璧な逸品-『忌木のマジナイ』

『忌木のマジナイ 作家・那々木悠志郎、最初の事件』

阿泉来堂/2021年/336ページ

ホラー作家、那々木悠志郎の担当編集となった久瀬古都美は、彼が初めて体験したという怪異譚を題材にした未発表原稿を読むことに。
そこに書かれていたのは、心霊現象に懐疑的な小学6年生、篠宮悟が、流行りの噂話で語られる『崩れ顔の女』を呼び出してしまうという物語だった。
その顔を見てしまった者は視力を奪われ、精神的に追い詰められた末に自殺してしまうという怪異。その真相を調べにやってきた那々木悠志郎の助けを借りて、悟は調査を進めていく。
一方で、原稿を読み進める古都美のもとにも『崩れ顔の女』が現れる。怪異の目的は何なのか、原稿に登場する怪異が自分のもとにやってくるのは何故なのか。
答えは那々木悠志郎の原稿の中にーー。
彼の物語はここから始まった。
異端のホラー作家、那々木悠志郎の原点が描かれる。シリーズ第三弾!

(Amazon解説文より)

 

 那々木悠志郎本人の指名により、彼の担当となった新人編集者・久瀬古都美。彼女の最初の仕事は、那々木がデビュー前に書いたという未発表原稿『忌木の呪』に目を通すことだった。

 『忌木の呪』の舞台は、北海道の地方都市・深山部町。両親が行方不明になり、親戚の家に預けられる形で引っ越してきた小学6年生・篠宮悟は、家にも学校にも居場所がなく、孤独な日々を過ごしていた。ある日、クラスメイトと言い争いになった悟は「呪いの木」の噂が本当かどうかを確かめさせられることになる。呪いの木の下に写真を埋め、「イサコオイズメラ」という呪文を三回唱えると、その写真に写っている人物のもとへ“崩れ顔の女”が現れる。その恐ろしい顔を見た者は発狂し、死に至るのだという。悟は、クラスで唯一自分に普通に接してくれる小野田菜緒と共に呪いの木へ向かい、自分の写真を埋めて儀式を行う。呪いなどただの噂だと軽く考えていた悟だったが、同じく呪いを受けたという女性が血まみれの状態で救急車に運ばれていく姿を目撃し、不安を募らせていく。そんな彼の前に、呪いの木について調べているという小説家・那々木悠志郎が現れる…。

 久々に帰ってきた実家で原稿を読み進めていた古都美だったが、ある晩、原稿に書かれているものと同じ、顔を見るだけで狂死してしまう怪異“崩れ顔の女”の姿を見てしまう。崩れ顔の女が出現する条件は、「呪いの木に写真を埋めること」と「崩れ顔の女について知ること」。那々木の原稿を読んだことで、古都美はその条件を満たしてしまったのだ。なぜ自分にわざわざこの原稿を読ませたのかと責める古都美に対し、那々木は「君は怪異を退ける方法を知っているはずだ」と告げる。果たして那々木の真意はどこにあるのか。古都美を呪ったのは誰なのか。不穏な態度を見せる母と兄は何を隠しているのか。少しずつ近づいてくる“崩れ顔の女”に怯えながら、古都美は『忌木の呪』を読み進めていく……。

 

 孤高のホラー作家にして怪異蒐集家・那々木悠志郎の「最初の事件」を描くシリーズ第3作。劇中作が本編の半分以上を占めるという、トリッキーな構成が光る。一度きりしか使えないであろう手法だが、決して一発ネタに終わっていない。『忌木の呪』の主人公・悟と、それを読む本編主人公・古都美の境遇が、崩れ顔の女の登場によって次第にシンクロしていくという趣向である。理不尽さと狡猾さ、さらにおぞましいビジュアルを兼ね備えた崩れ顔の女は、このシリーズならではの凶暴な怪異と言える。
 恒例のどんでん返しは、意外性がないというか、今回は比較的予想の範疇に収まっていた。とはいえ、エピソードゼロとしてはほぼ完璧な内容であり、不満を抱く読者は少ないだろう。シリーズの今後にも期待を抱かせる逸品だ。

★★★★(4.0)

 

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