『ライナーゲーム』
最東対地/2025年/368ページ

荒んだ生活を送るメロは、有名実業家が主催するゲーム「FURY RAIL」にエントリーした。賞金は1億円、参加者は各々の出発地点から列車で東京駅を目指す。金さえあればどん底から這い上がれると信じる人々が集結した。狡猾な心理戦、変更されるルール、想像を絶するペナルティー――ゲームは徐々に狂気の様相を呈しはじめ、メロは自身が恐ろしい状況にあることに気づく。人生の一発逆転をかけた壮絶なサバイバルゲーム、開幕!
(裏表紙解説文より)
荒れた家庭環境で日々貧しい生活を送る青年、“メロ”こと廻地走。妹の結婚式のために大金が必要になったメロは、誰もが知る有名実業家・横嶌智が主催する「FURY RAIL」に参加する。参加者はランダムでどこかの駅に飛ばされ、交通費をミッションで稼ぎながら東京駅を目指す。他者とチームを組むのも可能で、各所にあるチェックポイントを通過すると「地雷カード」「銀行カード」「監禁カード」といった様々な効果のカードを獲得できる。賞金総額は1億円。ただし敗退者・失格者は「いちばん大切なもの」を奪われてしまう…。
九州からゲームをスタートしたメロは、途中で知り合った中年女性“あおでん”とチームを組む。しかし彼女は重大な規則違反を犯し失格となり、その無惨な末路が全参加者に映像配信されてしまう。メロ自身も横嶌から失格を言い渡され、いちばん大切な親友の“セリ”こと芹澤が犠牲になることに。だが横嶌は最後のチャンスとして、「最下位から再スタートし、誰ともチームを組まずに1位でゴールすればセリを解放する」と告げるのだった。
メロは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かねばならぬと決意した…。
「FURY RAIL」は命を奪うことこそないが、敗者を待つのは社会的な死であり、実質的にはデスゲームに近い。ところどころでタイミーの内職のようなミッションをこなして資金を稼ぎつつ、『桃太郎電鉄』みたいなカードで他プレイヤーを妨害しながらゴールを目指す。ルールだけ見ればバラエティ番組のようだが、その実態は富裕層が貧困層のもがき苦しむさまを見て楽しむ、悪趣味なショーである。
一部の登場人物の名前や立ち位置は『走れメロス』を下敷きにしているものの、メロの行く手を阻むのは他プレイヤーや運営チームの悪意と実力行使である。地雷系メイクの制服少女“じぇーこ”、新興宗教二世という複雑な背景を持つ女児“チビ”らと共闘しながら、メロは親友セリのためにゴールを目指す。
このゲームの要となるのは各種カードだが、プレイヤー視点だけでなく読者視点でもカードに関する情報が少ないため「何でもアリ」感が強い。またルール自体も運営の裁量で変えられてしまうので、アンフェアな印象は否めない。作中にも登場する『HUNTER×HUNTER』のような緊迫した頭脳戦を期待すると、少々物足りなく感じるだろう。
ただ、単なるエンタメ作品では見られないような“苦み”を残すラストは、いかにもこの作者らしい。読んでいる途中で「王が改心してめでたしめでたし」にはならないと気づくが、スカッとしすぎる終わり方だと読後の印象が薄れてしまっただろう。ビターながらも前向きなこの結末はちょうどよい落としどころだと思う。
★★★(3.0)
