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記憶にない、存在しないはずの級友が過去と共に襲い来る。行き先不鮮明な佳作サスペンス-『同窓生』

『同窓生』

新津きよみ/2000年/281ページ

大学時代の友人たちと、十四年ぶりに集まることになった史子。近況報告や思い出話をしながら、楽しいひとときを過ごしていた。ところが、誰もが憶えている「鈴木友子」という同級生のことを、史子はどうしても思い出せない。皆に「鈴木さんと一番親しかったのはあなたのはず」と言われ、史子の不安はますます大きくなるが…。複雑に絡み合った記憶の底から恐怖が滲み出す、長編ホラー・サスペンス。書き下ろし。

(「BOOK」データベースより)

 

 設計事務所で働く鳥居史子は、大学時代の友人たち――中園由希子、浜崎香、北山みちる、宮沢敬子らとの同窓会に誘われる。久々に出会った級友たちとの思い出話に花が咲く中、「史子といちばん仲が良かった鈴木友子」という同級生の話になるが、史子は彼女のことをまったく覚えていなかった。先日、離婚した夫の住むマンションを仕事で偶然訪れることになったとき、史子は何かしらの理由で頭を強く打って記憶が混濁していたのだが、その影響で過去の記憶も失われたのだろうか? 同窓会では「恩師の萩島先生がパーティーで史子に会ったと言っていた」という話題も出たが、こちらも全然記憶にない…。次第に不安を募らせていく史子。

 実はこの同窓会は、史子を逆恨みしている由希子の案であり、口裏を合わせて偽の思い出や体験を語ることで史子を陥れようという計画だった。だが同窓会の後、香のもとへ「茶色の髪で茶色の瞳、背が高めのほっそりとした女」が現れる。彼女の姿は由希子たちが想像で作り上げた、鈴木友子そのものだった。さらに鈴木友子は由希子、みちるの前にも表れ、彼女らのトラウマをえぐるような言動を残していく。存在しないはずの同窓生の正体は、いったい何者なのか…?

 

 親密そうに見えて嫉妬と羨望が渦巻く同窓会のギスギスした雰囲気、姑の険のあるチクチク言葉、わけのわからない理屈で「盗作だ!」と被害者ぶる困った人など、相変わらず「リアルな厭さ」を書くのが上手い作者である。存在しない記憶に悩まされる史子、存在しないはずの女に脅かされる級友たち、それぞれが憔悴を重ねる中、いったいどのような地点に着地するのかなかなか悟らせない構成も巧み。最後はきっちり種明かしがされ、「こっち方面だったか」と面くらいはするものの無理やり感は無く、前向きなイイ話で終わっているのもあって読後感はよい。

★★★☆(3.5)

 

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