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台湾製学園ホラーゲームの30年後を描く。繊細な青春模様が光る秀逸ノベライズ-『返校 影集小説』

『返校 影集小説』

李則攸・巫尚益(著)、公共電視(監修)、七海有紀(訳)/2021年/320ページ

世界で話題沸騰!台湾発ホラーゲーム「返校」の実写ドラマを完全ノベライズ

世界を魅了した台湾発のホラーゲーム「返校」の30年後の世界を描いた決定版!

劉芸香(リョウ・ユンシャン)は台北から工芸の金鸞(ジンラン)に引っ越してきた女子高生。転校先の翠華(ツェイホア)高校は、時代錯誤の校則を守る学校だ。
ある日、旧校舎・涵翠樓(ハンツェイロウ)に入った彼女は、生徒の自殺を目撃する。そこは30年前に方レイ欣(ファン・レイシン)が飛び降りて以降、封鎖されており、校則を破ったとして、クラスで除け者になってしまう。
ある女生徒に声をかけられ心が通じ合う中で、自分の価値を見いだしていく芸香だったが、女生徒の囚われている過去を知り――。戦慄の台湾ホラー!

(Amazon解説文より)

 

 前時代的な厳しい校則で知られる、翠華高校に転校してきた劉芸香。校風になじめない彼女は、こっそりタバコを吸いに訪れた旧校舎でクラスメイトの程文亮と出会い、次第に親しくなっていく。だが、旧校舎で女生徒の飛び降り自殺を目撃してしまった芸香は、校則違反を理由にクラスから孤立し、「鬼」として扱われてしまう。そして不安定な心を抱える彼女の前に、30年前に自殺したという女生徒・方芮欣の霊が現れるようになる。芮欣は「次は、あなたが私を助ける番よ」という謎めいた言葉を残す…。

 芸香の心を支えてくれたのは、新任教師の沈華と、詩社クラブでの活動だった。校長・沈敬の息子でありながら、学校を変えようとする理想を掲げる沈華は、生徒たちからの信頼も厚い。芸香の詩の才能を見出し、彼女を励ます沈華だったが、その裏には教師としての域を超えた歪んだ愛情と嫉妬心が潜んでいた。やがてふたりの関係は噂となり、芸香は徹底的な糾弾を受けることになる。心を砕かれた芸香が意識を取り戻したとき、彼女は芮欣になっていた。30年前の悲劇が、再び繰り返されようとしていた…。

 

 『返校』は、Steamで大ヒットを記録した台湾製ホラーゲーム。その30年後を舞台にした、Netflixドラマ版をノベライズしたのが本作である。原作ゲームを未プレイでも、終盤で物語が丁寧に補完されているため支障はない。ただ、台湾の風俗や歴史に関する描写が多いため、ある程度の背景知識があるとよりスムーズに読めるだろう(個人的には人名がなかなか頭に入らず苦労した)。また、一部ゲームと描写が違う箇所にはちゃんとしたフォローが入っている。
 旧時代的で息苦しい学校生活の中でもがく、多感な若者たちの心情が繊細に描かれている。残酷な現実に押しつぶされる青春と、すれ違う恋模様が続く中で、思わずいま読んでいるのがホラー小説であることを忘れてしまいそうになるほど。特に教師、学校、両親、すべての大人に芸香が裏切られてしまう第五章の展開は胸が痛む。学園ホラーに期待する怖さとはまた違う怖さのような気はするが、読みごたえはじゅうぶん。ノベライズ元のドラマ版は未見だが、原作ゲームが好きなら手に取って損はしないだろう。

★★★☆(3.5)

 

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