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思ってたのと違う! サスペンス展開重視の地味過ぎる超能力モノ-『扉のない部屋』

『扉のない部屋』

スティーヴン・ギャラガー/1994年/364ページ

スイスの製薬研究所が極秘に開発した新薬“EPL”。イギリス人の青年ジムは、ある事故をきっかけに実験段階のEPLを注射されてしまった。その日からジムの身体と精神に恐ろしい異変が起こる。決して抜け出すことの出来ない自分自身の意識下の世界に、ジムは次第に閉じ込められてゆく…。現実か、それとも薬がもたらした幻覚なのか?
めまぐるしく展開するイメージの世界を壮大なスケールで描く、長編サスペンス・ホラー。

(裏表紙解説文より)

 

 リシンガー-ジュヌー製薬会社の研究所を訪れたジム青年は、実験用の犬を苛めるのが趣味というろくでなしの飼育係から電磁警棒をくらって昏倒。ジムがいっこうに蘇生しないことに焦った研究所員は、開発中の新薬EPLを彼に注射する。その結果ジムは奇跡的に息を吹き返したが、部分的な記憶喪失になっていたうえ、定期的に悪夢を見るようになっていた。

 医者にかかりつつ、田舎町で別荘の管理人という新たな仕事を得たジム。新たな友人のリンダやテリーと共に穏やかに過ごしていたが、リンダの家で見たパソコンの画面にリジンガー-ジュヌー製薬会社、自分の名前、そしてオクトーバー計画なる謎の文字列を見たジムは、自分が製薬会社によって監視されていたことを知る。かかりつけの医者もグルだったことがわかり、街を逃げ出してフランスへ渡ったジムは、製薬会社社長の継娘・ロシェルと接触。社内での立場を確保したいロシェルは、ジムの証言を利用して本社と交渉しようとする。ジム以外のEPLの被験者はみな廃人同様になっていたため、製薬会社は彼に関するデータを欲していたのだった。ジムたちはパソコンに詳しいテリーを招聘し、ハッキングでEPLに関する情報を得ることに成功する。だが、ロシェルの真の目的は別のところにあった…。

 

 ホラーと言うよりはサスペンスであり、正直なところ盛り上がりどころが少なくかなり退屈である。謎の新薬を打たれたジムの身に起きる恐るべき変化というのは「悪夢を見る」「背中が痛む」くらいで、いくらなんでも地味すぎる。彼の‟能力”が開花するのは全364ページ中の330ページ辺りからであり、それが猛威を振るうラストシーンは確かに印象的ではあるものの、ちょっと遅いのではなかろうか。「謎の新薬による人体実験で超能力を得た男の逃避行!」というあらすじから想像できる内容とは、だいぶ異なるモノをお出しされるので肩透かし感がある。キングやクーンツなら同じテーマでもっとエンタメしてるものを書けるだろうな…と思いながら読んでいた。ちなみに本作はイギリスではテレビシリーズ化されているとのこと。

★★☆(2.5)

 

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