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人魚と椿と常陸坊海尊。名家を蝕む呪いと陰謀の正体は?-『ホーンテッド・キャンパス 白い椿と落ちにけり』

『ホーンテッド・キャンパス 白い椿と落ちにけり』

櫛木理宇/2017年/304ページ

こよみとの初デートが成功し、思い出しては幸せ気分の大学生、森司。けれどデート以降、こよみと会うと、頭が真っ白になって逃げ出したくなる怪現象が!戸惑う森司だが、オカ研には新たな依頼が。それは、「悪魔祓い系の映画を観ると、全身の血が沸騰する」という学生から、そのせいで、こよみ達と恐怖映画を観るはめになり…。悪魔、地縛霊、呪い。けれど一番恐ろしいのは、制御できない恋心!?青春オカルトミステリ第11弾!

(「BOOK」データベースより)

 

 前巻のデートの余韻で浮かれ気味の森司は、恥ずかしすぎてこよみと話せなくなってしまうのであった。だがわりとすぐに克服したので問題ないのであった。なんなんだ君たちは。

 

 「悪魔のいる風景」-映画『エクソシスト』を観ると全身の血が沸騰しそうになる、という特殊性癖みたいな告白をしてきた仮入部希望生・蟹江曜平。彼を交えて『エクソシスト』観賞会を開くオカ研のメンバーだったが、取り憑かれた少女が悪魔祓いされるクライマックスのシーンで曜平がいきなり悲鳴をあげ始める。どこからか聞こえる子供の泣き声、宙に浮き踊り狂う書物…。部室内を襲うポルターガイスト現象は、曜平が気を失うと同時に収まった。悪魔に取り憑かれているのは曜平自身なのか? オカ研メンバーは曜平に話を聞き、彼の実家が一時期宗教にかぶれていたらしいこと、曜平が最近失恋し、しかも意中の女性が実の兄と婚約したことを知る…。悪魔祓いを取り上げつつ、人間の弱みに付け込む本物の「魔」について言及されるという、オカルトミステリの原点に立ち返ったかのようなエピソード。

 「夜ごとの影」-古民家にひとり暮らししている入江順太から、「家に出る子供の幽霊に怖がられてしまっているので、安心させてやりたい」という依頼を受けたオカ研。続けて、激安物件に引っ越した安西千歳からは「怒りに燃える女の幽霊から、主人は絶対に渡さないという身に覚えのない恨み言をぶつけられている」という依頼が。偶然にも、どちらの依頼も「幽霊の誤解を解いてほしい」というものだった…。2つのまったく別の依頼が、時たまニアミスしつつもそれぞれの異なる結末を迎える。実質2つのエピソードをまとめたような一編。

 「白椿の咲く里」-院生の内藤珠青から、「従妹から自分に向けられている呪いを跳ね返したい」という依頼。彼女の従妹・美紅は読者モデルに選ばれるほどの美貌、かつ我がままな気質の持ち主らしい。珠青の婚約者・朋彦を寝取ったうえに、八つ当たりで呪いをかけてきたと珠青は訴える。オカ研は「神社に祀られている人魚のミイラを見せてほしい」という建前で、神社の宮司である朋彦にアポを取る。人魚の肉を食べて不老不死になったと言われる常陸坊海尊の伝説。境内に広がる椿園。姿を見せない美紅。口をつぐむ朋彦。そして、徐々に顔つきが美紅そっくりに変貌してきた珠青。すべてが線でつながったとき、ある一族の過酷な運命が明らかになる…。ラストを締めくくるにふさわしい、謎が謎を呼ぶ大事件。

 

 やや長めでボリュームのあるエピソードが多く、1話1話のゲストも雰囲気もバラエティ豊かで読み応えある一冊。陰惨な話もあるものの、バカップルのおかげで全体では見事に中和されているのがすごい。安定。

★★★★(4.0)

 

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