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曲者ホラー漫画家の怪演・狂演! パルプ感に満ちた楽しい1冊-『HOLYⅡ』

『HOLYⅡ ホラーコミック傑作選 第3集』

犬木加奈子、御茶漬海苔、風忍、谷間夢路、日野日出志/1996年/405ページ

日常と非日常が交錯する暗闇で、心の奥底に宿る残忍さと凶暴さが顔をのぞかせる…。狂気をはらみ、よこしまな計略を鮮烈に描くホラーコミックの旗手が奏でる怪奇と幻想の世界!

〈収録作品〉

犬木加奈子「恐怖夜話――トビオ」他

御茶漬海苔「私の花」

風忍「死霊の涙」他

谷間夢路「かわいい赤ちゃん」他

日野日出志「愛しのモンスター」他

(裏表紙解説文より)

 

 

 なかなかエグいメンバーである。前巻『HOLY』はわりと正統派のホラー作品が集っていた印象だが、本巻はなかなかの曲者作家揃い。バッドテイストでシュールでスプラッタな、なんとも妖しい魅力を放つアンソロジーだ。

 犬木加奈子「恐怖夜話――トビオ」は、半魚人みたいな風貌のクラスのキモい男子・トビオ(普通にミミズを食べたりするのでますますキモがられている)の抱える恐るべき秘密。トビオはクラスの女子に自分の飼っている「人魚」を見せるのだが、それはどう見ても凶悪な顔をした人面魚で…。犬木加奈子のもう1作「蜥蜴」は、トカゲのしっぽを食べさせられた少女がトカゲ女になってしまうというたいへんわかりやすい内容。どちらも犬木加奈子ならではの“顔面”のインパクトを存分も味わえる学園ホラー。

 御茶漬海苔「私の花」は、初期の繊細さと中期以降の過剰なまでの分かりやすさがうまい具合に融合している、これぞ御茶漬海苔といった味わいの一品。クラスメイトからも両親からも疎まれている少女。部屋で育てている植物だけが生きがいだったが、ある夜、登校拒否した彼女にブチ切れた父親がすべての草花をぐちゃぐちゃにしてしまう。悲しみに暮れる彼女の腹部から花のつぼみが伸び、そこからとんでもないものが生まれ…。

 風忍は「死霊の涙」「神秘鏡」「殺人鬼には死を」「エンゼルの瞳」の4作が収録されているが、正直なところ4作ともまったく意味が分からない。逆に凄い。スタイリッシュな絵柄と構成、凡人の理解を超えるストーリー展開がぐゎんぐゎんと脳を揺さぶってくる。

 谷間夢路「かわいい赤ちゃん」は、とにかく登場するバケモノの醜悪さに尽きる。「キモくてグロい」だけで読者に爪痕を残していくスタイルは信頼できるの一言。「醜面(しこめん)」も文字通りの醜悪な怪異に加え、友人らの裏切りというトラウマを突いてくる辺りは意外と正統派の少女ホラーかもしれない。

 『HOLY』では「はつかねずみ」で読者を最悪の気分にさせてくれた日野日出志だが、本書に収録されているのは妙なノリのギャグ満載の「愛しのモンスター」「愛しのモンスター2」「さらば愛しのモンスター」3部作。深海魚の死体と焼酎とワカメの味噌汁から生まれた不死身のモンスターが大暴れしては退治される、という同じ流れを天丼で繰り返すシリーズだが、モンスター映画ならではの孤独感、寂寥感も濃厚に漂っている。醜悪で狂暴ながらもどこか可愛らしい、まさに愛しのモンスターである。

★★★☆(3.5)

 

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