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犯罪者への強烈な怒りが、後戻りできないスイッチをONにする。犯人目線で1作目を描くスピンオフ-『OFF 猟奇犯罪分析官・中島保』

『OFF 猟奇犯罪分析官・中島保』

内藤了/2020年/352ページ

見習いカウンセラーの中島保は、殺人者の脳に働きかけて犯行を抑制する「スイッチ」の開発を進めていた。殺人への欲望を強制的に痛みへ変換する、そんなSFじみた研究のはずが、実験は成功。野放しになっている犯罪者たちにスイッチを埋め込む保だが、それは想像を超え、犯罪者が自らの肉体を傷つける破滅のスイッチへと化してゆく―。「猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子」シリーズ始まりの事件を保目線で描く約束のスピンオフ長編!

(「BOOK」データベースより)

 

 藤堂比奈子シリーズ第1作『ON』を、真犯人である中島保の目線から描いたスピンオフ作品。『ON』未読でも楽しめるが、個人的には『ON』を読んで本作を読み、そしてもう一度『ON』を読み返すのが良いと思う。

 口にイチゴキャンディを詰め込まれ、全身を解剖されて死んでいた少女。凄惨な殺人現場を見て以来、中島保の心には暗い影が差していた。自分には彼女を救う術があったのではないか。見習い心理カウンセラーの彼は、対象の心に「潜入」する術を学び、快楽殺人者の心中を推しはかろうとしていた。さらに、恩人であるメンタルクリニックの院長・早坂と共に進めていた計画がもうひとつ。それは相手の脳に腫瘍を発生させることで、歪んだ欲望を抱いたときに苦痛を感じさせるスイッチを「ON」にするというものだった。

 少年らを凌辱殺人し、知的障害を持つ弟に罪をなすりつけた兄。レイプ被害者がトラウマから立ち直り、婚約を結んだタイミングでレイプ動画を送りつけて自殺に至らせた男。その他、幾多もの快楽殺人者、性犯罪者、暴力加害者…。中島は早坂の指示のもと、法で裁かれない醜い欲望の持ち主たちに「スイッチ」を仕掛けていく。だがスイッチがONになった連中は、みな壮絶な惨たらしい死を迎えていた。自分のしていることはあの殺人者たちと何が違うのか? 名誉と名声のため早坂が暴走し始めていることに気づきつつも、答えを出せないままにいた中島。だがそんな彼の前に、猟奇的な不審死を調査する八王子署の刑事、藤堂比奈子が現れた…。

 

 シリーズ完結作『BURN』のあとがきによれば、作者が『ON』を書いたきっかけは他者を命を顧みない者への「純然たる怒り」であり、そもそもは中島が主人公だったのだという。確かにこの‟スイッチを押す者”事件に関しては、中島目線で追う本作のほうが彼の怒りをストレートに感じられるし、物語としても面白く読めた。

 全編に渡って中島の強烈な怒り、悲しみ、戸惑いが満ちているものの、藤堂との出会いがその重い雰囲気を吹き飛ばしてくれる。シリーズが一段落した後に書かれたスピンオフとしては最上のものだと思う。

★★★★☆(4.5)

 

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